■真面目で気弱なサラリーマン『黒い家』の若槻慎二

 次に、貴志祐介さんの小説を漫画化した『黒い家』(小野双葉さん)。保険金殺人を題材としたサイコホラー作品だ。1999年に実写映画化された際には、主人公の保険調査員・若槻慎二役を内野さんが、若槻を執拗に追い詰める菰田幸子役を大竹しのぶさんが演じた。

 これまで挙げた華のあるキャラとは違って、若槻は保険会社に勤める普通のサラリーマンだ。上司や顧客に腰を低くして接し、電話口でもボソボソと申し訳なさそうに話す。大竹さん演じる幸子が強烈なキャラであるぶん、全体を通して内野さんの存在感は薄い。

 しかし、幸子から徐々に追い詰められていく若槻の恐怖やパニック、終盤の凄まじい緊迫感は、あまりにリアルだ。いつの間にか観客も若槻と同じ視点になって、幸子に見つからぬよう息を潜めていることに気づく。

 大竹さんの狂気の演技も凄まじいが、それをより引き立てていたのは、観る者に若槻の恐怖を追体験させる内野さんの演技力ではないかと思う。

■明朗快活な幕末のカリスマ『JINー仁ー』の坂本龍馬

 最後に、江戸時代にタイムスリップした脳外科医の活躍を描いた『JINー仁ー』(村上もとかさん)。TBS系列で2009年と2011年の2期にわたってドラマ化され、坂本龍馬役を内野さんが演じた。

 史実の人物だけに、概ねどの作品でも龍馬のキャラクターは一貫しており、魅力的な人たらしとして描かれることが多い。本作もその例外ではないが、内野さんの演じる龍馬はとくに気持ちが良く、あけっぴろげで、豪快で、愉快だった。

 この役で「第13回日刊スポーツ・ドラマグランプリ」助演男優賞を受賞した際のインタビューによると、撮影前に龍馬の地元・高知県に通って現地の人たちと酒を飲みかわし、土佐弁をマスターしたという。その甲斐あってか高知での評判は極めて高く、土佐弁の完璧さも地元民のお墨付きのようだ。

 本作を思い出すとき、あの雄大なBGMと、主人公・南方仁を演じた大沢たかおさんの優しいナレーションとともに、ちょっと小汚いけども愛嬌満点に「南方せんせえ!」と笑いかける龍馬の姿が浮かぶ。仁先生への全幅の信頼が窺える笑顔に、見ているこちらまで思わず嬉しくなるほど。なんとも心奪われる龍馬役だった。

 

 以上、”憑依型”の俳優と名高い、内野聖陽さんの七変化を紹介した。

 絶賛放送中の『きのう何食べた?』もますます好評で、可愛くて思いやりに満ちた乙女なケンジで、毎回視聴者を楽しませてくれている。どんな役にでもなりきってしまう内野さんの活躍に、今後もますます目が離せない。

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