漫画の連載は作者にも予想できないものだ。読者目線で見れば予定されていたような展開も、作者にとっては予定していなかった……なんて裏話も珍しくない。『はじめの一歩』(講談社)の森川ジョージ氏も公式X(旧Twitter)にて「連載はどう変わるかわからない」と語っている。未知数のものと向き合い続ける……これは、連載漫画家の宿命といえるかもしれない。
今回は、作者の想定を大きく超えて活躍したキャラクターを見てみよう。
■死ぬはずが読者人気で生き延びた…『ドラゴンボール』ベジータ
まずは、鳥山明氏の『ドラゴンボール』(集英社)から。“ジャンプ黄金期”を象徴する不朽の名作も、予想外の連発だったようだ。たとえば、セルの第2形態は鳥山氏のお気に入りで長く活躍する予定だったが、編集担当から「早く完全体にしちゃいましょう」と言われ展開を早めたエピソードは有名であろう。
ファンにとって衝撃的だったのが、ベジータはすぐ死ぬはずのキャラだったという話だ。
『30th Anniversary ドラゴンボール超史集 ―SUPER HISTORY BOOK―』のおまけ漫画において、鳥山氏自身がベジータに「おまえなんて悟空にやられて死ぬ予定だったのに」と、語っているのだ。
これにはベジータも大ショック……でもなく「オレが予想外に人気だったので読者が怖くて殺せなかったと聞いたけどな……」と、言い返している。鳥山氏ほどのレジェンド漫画家でも、やはり読者の声は気になったようだ。
しかも、読者人気が救ったのはベジータの命だけではない。同漫画内で鳥山氏は、“ベジータが生き残ったので代わりのやられ役としてフリーザが生まれた”とも明かしているのだ。
もしベジータが不人気だったら彼はさっさと死んでしまい、フリーザも登場しなかったのだろうか。そんな『ドラゴンボール』、正直まったく想像できない。誰もが知る名作もその連載中は波乱に満ちていたのだ。
■「響子と恋仲になるとは想定していなかった」『めぞん一刻』の五代裕作
高橋留美子氏が描く80年代ラブコメの金字塔『めぞん一刻』(小学館)にも、作者の想定を超えたキャラが登場する。それが、主人公・五代裕作だ。
木造アパート「一刻館」の管理人・音無響子との、じれったくも心温まる恋愛劇で読者を夢中にさせた五代。響子へのプロポーズ「残りの人生をおれに…ください」や、彼女の亡き夫・惣一郎の墓前で語った「あなたもひっくるめて、響子さんをもらいます」などは、一途で優しい五代の魅力が詰まった名ゼリフだ。
そんな五代だが、当初は響子とくっつく予定ではなかった……それどころか、そもそも主人公ですらなかったという。高橋留美子氏の公式X(旧Twitter)によると、五代は「最初は主人公ではなく住人の一人だった」とのことだ。
確かに初期の五代といえば、とにかくだらしなくて優柔不断なダメ学生だった。“最初は主人公ではなかった”といわれると、なんとなく納得してしまう。とはいえ、その他大勢のひとりだったキャラを主人公に昇格させていたとは驚きである。
なお、高橋氏は五代について「最後はまあまあ成長してくれたかと」とも振り返っている。いち読者としては「まあまあどころじゃないですよ!?」とツッコみたい。