■「描いていて全然楽しくなかった」『進撃の巨人』クリスタ・レンズ
最後に諫山創氏の『進撃の巨人』(講談社)から、クリスタ・レンズを紹介しよう。登場時はエレンたちと同じ第104期訓練兵のひとりだったが、のちに王家の血を引く唯一の生き残り、ヒストリア・レイスであることが判明。物語のカギを握るキャラとして活躍した。
本作は、その緻密かつ壮大な展開から“すべて最初から計算され描かれた”と思われがちだが、少なくともクリスタの存在は諌山氏にとって想定外の連続だった。
まず諌山氏は、本作を描くうえで「ひとりは『萌え』的なかわいいキャラを入れよう」と考え、クリスタを発案した。しかし、実際に描いてみるとかわいらしいだけで面白みがなく、描いていて全然楽しくなかったというのだ。
ライナーに「結婚しよ」とすら思わせた愛らしいクリスタを、まさか作者が苦手だと思っていたとは……。
だが、そのクリスタがのちの展開を助けたとも諌山氏は語っている。かわいいだけの無個性が、やがて「外見はよくても中身はからっぽ」というクリスタだけの個性になっていったのだ。
実際、クリスタは作中でも「本当の私はこんなに空っぽで」と吐露している。そんな彼女が王家の末裔、ヒストリアとして立ちあがるストーリーはとても面白かった。
諌山氏は本作連載中に受けたインタビュー内で、クリスタについてこうまとめている。「今では好きなキャラクターのひとり」と。
個性的なキャラクターはときに意思があるかのように勝手に動き出し、生みの親の想定をも超えていく。そしてキャラの活躍が物語そのものに大きな影響を与え、誰も想像できないドラマを生み出すのだ。
連載は、先の動きが読めない、まるで“生き物”のようではないだろうか。一流の漫画家には、こんなヤンチャな生き物と上手に付き合っていく技術も必要なのかもしれない。