『コウノドリ』に『アンサングシンデレラ』も…漫画から実写化された“ちょっと珍しい切り口だけど面白い医療漫画”の画像
モーニングコミックス『コウノドリ』第6巻(講談社)

 天才的外科医が活躍する医療漫画を読むと、胸が躍ってしまうものだ。治療困難な状況からギリギリで患者を救うシーンには、思わず熱くなってしまう。そんな医療漫画のなかには、主人公が外科医ではない作品も実はあり、面白い。

 そこで今回は、珍しい切り口で描かれ、実写化もされている医療漫画を3つ紹介していこう。

■出産は命がけなのは間違いない…リアルな現場に生まれる小さな命に感動した『コウノドリ』

 まずは、綾野剛さん主演でドラマが2シーズン放映されていた人気作品『コウノドリ』。産婦人科医や妊婦と家族をテーマにした漫画で、鈴ノ木ユウさんにより『モーニング』で2012年に連載がはじまり、2020年に完結している。

 主人公・鴻鳥サクラは産婦人科医ながら、謎のジャズピアニスト「ベイビー」としても活動して多忙を極めている。たとえ公演前や公演中であっても病院から急報が入れば、患者のために迅速に駆けつけるのだ。

 産婦人科医が主人公なだけに、もう一人の主役は妊婦である。毎回異なる妊婦が登場し、リアルなストーリーが感動や葛藤を呼び起こす。妊婦だけでなく、その家族にもスポットを当てており、ときに自分の環境や体験と重なってしまうことも。

 また、同僚の産科医や助産師、看護師といったスタッフも、生まれてくる赤ちゃんのために懸命になって命をつなぐ姿勢に心を打たれてしまう。

 妊娠・出産は、病気ではないのに病院へ通わなくてはならないもの。安全と思い込んでいる人が多いものの、出産は奇跡だとサクラは信じて疑わない。母体や胎児を優先するものの、サクラはときにリアルな現実を家族に突きつけることもある。だが、それはあくまでも生まれてくる赤ちゃんのためなのだ。

 出産が命がけというのは間違いなく事実だろう。未受診でたらい回しにされる妊婦や中学生の妊娠、切迫流産で少量破水した妊婦に赤ちゃんを助けるか助けないのかの決断を迫るシーンなど、この漫画は本当にいろいろと考えさせられるし、胸にくるものがある。

 そして、すべての赤ちゃんが助かるわけではない。無脳症で“おめでとう”がない悲しい出産や、ドラマでも話題となった死産の回はつらすぎるのだが、母親たちやその周りの人々の心情が丁寧に描かれている。ぜひ筆者も、子どもたちにもおすすめしたい作品だ。

■スーパー毒舌で偏屈な病理医が医師を論破して患者を救う『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』

 さて、次は「病理医」という珍しいテーマに取り組んだ『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』だ。原作:草水敏さん・漫画:恵三朗さんによって、『月刊アフタヌーン』で2014年より連載され、2016年には長瀬智也さん主演でドラマ化もされている。

 この作品は、主人公でコワモテの病理医・岸京一郎の存在が面白い。病理医は医師ながら患者と直接会うこともなく、各科から送られてくる検体を基に分析し、病気の診断を確定させていく。

 岸は根拠もなく診断を下す臨床医に容赦なく突き返し、自分の診断を意に介していない臨床医には徹底的に論破していくスーパー毒舌の病理医だ。一見すると偏屈だが、その膨大な知識は、患者からすればものすごく頼りになるといえるだろう。

 この漫画が登場するまで、病理医が何をする職業なのかほとんど知らなかったものだ。登場人物もみんな、ひと癖あって面白い。ドラマでは武井咲さんが演じたもう一人の主人公といえる新人女性医師・宮崎智尋の存在が、なんともほんわかさせてくれる。

 どちらかというと真面目で愚直な宮崎が主人公で、岸を超える病理医になっていく……というのが一般的な漫画といえそうだが、まあ岸を超えることなどできないだろう。その毒舌で「勝手にすれば」なんて言われそうだ……。

 そんな岸が病院の権力争いにも動じず、経営合理化を目指すコンサルタントにも屈せず、我が物顔で仕事を続けていくのはたくましい。

 ただ、外科医が主人公ではないことから、手術で患者を救えないケースも見られる。筆者的には、新薬「JS1」に一縷の望みをかけた膵臓がんの末期患者の話や、小児がん末期の10歳のハル君の話では涙腺が崩壊したものだ。

 周囲はハル君本人に告知するか悩んでいるが、それも仕方がないことだろう。しかし、自身が治らない病気だと知っていて実は怖いのに、周囲に心配をかけまいと知らないふりをして嘘をつく少年の姿には心が重たくなってしまう。そして、嘘はよくないと軽く言いながらも、自分の過去と向き合うようになっていく岸。

 時折コミカルに笑わせてくれるシーンはあるものの、二人が“友達”と“癒し系”という関係になり、嘘と優しさと後悔に向き合っていく姿には胸に来るものがあった。

  1. 1
  2. 2
  3. 3