まさに「弘法にも筆の誤り」? 森田まさのりに森川ジョージ、人気漫画家のプロ意識の高い「やっちまったミス」の画像
講談社コミックス『はじめの一歩』第138巻(講談社)

「弘法にも筆の誤り」という言葉がある。これはたとえその道の名人と呼ばれるような人間であっても、失敗をすることはあるという意味のことわざだ。絵やセリフを巧みに使って物語を描き、多くの人の心を動かす漫画家の中にも、痛恨のミスをしたことに後から気づき、後悔していると明かす人は多い。

 今回は、手元に該当漫画があればつい「フフッ」となってしまいそうな、大物の漫画家たちによる痛恨のミスを紹介したい。

 まずは、2023年7月に138巻が発売されたボクシング漫画『はじめの一歩』(講談社)。この巻の表紙は、コミックス累計1億部突破を記念して、1990年2月に発売された記念すべき1巻と同じ構図がとられている。

 30年以上に渡って連載される人気ボクシング漫画であり、多くのファンにとっては目を閉じていても絵が思い出せる『はじめの一歩』第1巻だが、作者の森川ジョージ氏が7月14日に自身のSNSを更新し、この1巻の表紙に隠された意外なミスを暴露した。

 それは「表紙は一巻と同じ構図ですが拳を逆に描いてしまい、いつか描き直したいなあと思っていました。間違いが大きすぎて気づかない例です」というもの。

 森川氏は続けて「138巻、30年以上かけて一億部に到達しました。 全て皆様のおかげです。ありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします」というコメントとともに並べられた138巻と1巻の写真をアップ。その表紙を比べてみると、確かに1巻では左手の親指が見えず、右手になっている。

 あまりに大きなミスすぎて、熱心なファンですら気づいた人は少なかっただろう。

 森川氏はこの他にも表紙にまつわるミスを暴露したことがある。それは2015年のこと。

「大きいミスほど見逃しがちと言ったけど、堂々としたミスもだよね。今だから言うけどね、これ↓。ひどい間違いしてて発売されてもしばらく気づかなかったんだよね」という投稿に添えられた44巻の表紙の写真だが、よくみるとベルトの文字が「WORLD CHAMPION」ではなく「WORLD CHANPON」となっている。あまりに自然に紛れ込むまさかの「ちゃんぽん」に気づいた人は、いったいどれくらいいたのだろうか。

■森田氏の「なかったことにしたい」作画ミス

 続いては、『ろくでなしBLUES』『ROOKIES』(ともに集英社)などで知られる漫画家の森田まさのり氏。

 森田氏は2021年、SNSに30年越しに知ったという事実を告白をした。それは「ろくでなしで、太尊が鬼塚にバックドロップ決める週のタイトルで、誰かの英語の歌詞から取って、ちょっとイキって『CRUSH ON YOU』ってつけた事がある。倒した瞬間にぴったりのカッコいい言葉だと思ってたけど、先日この言葉の正しい意味は、『貴方に夢中』だと知って、30年越しにジタバタしてる」というもの。

 カッコつけたつもりだったのに、思っていた意味と違ったーー。森田氏は「ジタバタ」と恥ずかしそうな投稿をしたが、読者がまさしく“夢中”になってページを読み進めた鬼塚編のクライマックスにふさわしいタイトルにも思える。

 森田氏はこの他にもSNSで、自身の過去作のワンシーンを取り上げ「なかったことにしたい」というシリーズを投稿している。

 たとえば『ろくでなしBLUES』のワンシーンで、背景を間違えてしまったというミスや、『ROOKIES』でスピードガンに表示される球速をマイルとキロを間違えて書いてしまったミスなど、「誰か気づけや!」とツッコミを入れている。このように基本的には作画ミスや設定ミスなどを自ら指摘する面白おかしい投稿が多いが、2023年8月20日に投稿されたものは趣が違った。

「最終回へ向けて、色々考えた挙げ句やってしまった禁じ手。 やはり作品の世界観にはそぐわないし、他のやり方はないものか…、いやいやこれでこそあの終幕の展開を迎えられる…などと描いてる最中も悩んでました。 今思えばやっぱり…なかったな…」と後悔しているのは、『べしゃり暮らし』の主人公・上妻圭右が物語の終盤で記憶を失ってしまったシーンだった。

『べしゃり暮らし』は高校生コンビが漫才界の頂点を目指す姿を描く芸人青春漫画で、2019年に間宮祥太朗主演でドラマ化。その際、2015年の休載以来、約4年ぶりに10号連続集中連載という形で再開され、お笑いショーレース「NMC」決勝の様子が描かれた。それから4年が経った今もファンが多い同作だが、記憶喪失という展開を“禁じ手”として後悔しているという、意外な作者の苦悩に驚いた人も多いのではないだろうか。

 真剣に漫画を描いているからこそ、やり直しのきかない漫画の展開には悩むもの。我々の想像以上に、産みの苦しみというのは途方もないものなのだろう。

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