■転落したお嬢さまが銀行強盗? 最終回はある人物が不治の病に冒され…

 1985年にTBS系列にて放映された『乳姉妹』は、まさに大映ドラマを凝縮した作品と言えるだろう。同じ日に生まれた漁師と財閥の娘が入れ替わり、数奇な運命を辿る物語だ。原作は吉屋信子さんの少女小説『あの道この道』だが、設定こそ同じでもこちらも全くの別ものに仕上がっている。

 裕福な大丸家の娘・千鶴子役を『不良少女とよばれて』『スクール☆ウォーズ』など大映ドラマで地位を確立しつつあった伊藤かずえさんが演じ、松本家の娘・しのぶ役を“ポスト堀ちえみ”と言われた渡辺桂子さんが担当。

 勝気でわがままな千鶴子は、大丸家の世話になるしのぶとその妹・耐子に対して陰湿なイジメをくり返していた。ところが、18歳を迎えたふたりは自身の出生の秘密を知ることになるのだが、千鶴子は絶望のあまり自殺未遂をしたり、家出の末に不良となり、ついには銀行強盗で少年鑑別所に送られてしまうほどの転落ぶり。さらに本作も20時枠でありながら、次々に主要人物が刃物で刺されるというショッキングなシーンが多かった。 

 なかでも極めつけだったのが、松村雄基さん演じる田辺路男の畳みかけるような展開だ。悪性腫瘍に冒された路男は、27話でトランペット演者の命である片腕を切除。最終回では千鶴子の献身や自身の努力で片腕でもトランペット演奏が可能となるも、病状が進行し死んでしまう。この間わずか2話ながら、千鶴子とのささやかな結婚式、憎しみ合っていた雅人たちとの和解、漁船に乗って死出の旅路など劇的な展開がぎゅっと詰め込まれていたのである。

 最初こそイジメに耐えるしのぶが主人公であったが、途中から千鶴子側へとスポットが向けられ、急に路男推しとなった怒涛の展開に、当時の視聴者もあっけにとられるしかなかった。

 大映ドラマには印象的なセリフや設定が多い。『少女に何が起こったか』では石立鉄男さん演じる川村刑事の「薄汚ねぇシンデレラ」、『不良少女と呼ばれて』で母親が娘に放った「あなたさえ生まれていなければ……」は親子関係について議論の題材としてもたびたび取り上げられている。

 また、『プロゴルファー祈子』では5番アイアンを武器に、『ポニーテールはふり向かない』ではドラムスティックを武器にするなど、荒唐無稽な大映ドラマは当時のアイドルブームを支え、視聴者を楽しませ続けたのは間違いないだろう。

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