70年代から80年代にかけて一時代を築いた「大映テレビ」のドラマ作品は、突飛な展開や大げさなセリフで視聴者に大きなインパクトを与えた。
同社の作品では、1984年に放映された山下真司さん主演の『スクール☆ウォーズ 泣き虫先生の7年戦争』が有名だが、それと並ぶ人気だったのが女性アイドルを起用したいくつかのドラマ。それら作品では、常軌を逸したイジメや妨害、二転三転する状況、出生の秘密、不治の病、荒唐無稽な新事実の発覚など、視聴者の想像を越える展開が毎週のように繰り広げられた。
そこで今回は、現代では再現が難しそうな、女性アイドルたちが主人公を演じた大映ドラマをふり返りたいと思う。
■「ドジでのろまな亀」千秋と恋のライバルになったのは?
まずは1983年よりTBS系列にて放送されたスチュワーデス特訓生たちを描いたドラマ『スチュワーデス物語』。タイトルを聞いて、アメリカ映画『フラッシュダンス』の『Flashdance…What a Feeling』を日本語カバーした麻倉未稀さんによる主題歌を思い出した人も多いだろう。
憧れの教官・村沢浩役を風間杜夫さんが演じ、落ちこぼれの主人公・松本千秋役として1982年にレコードデビューした堀ちえみさんが抜擢された。
日本航空社員の経歴を持つ直木賞作家・深田祐介さんの小説を原作に、日本航空からの全面的なバックアップなどで作られた本作であるが、大映ドラマの“特異な味付け”が目立った内容となっている。大映デビューを飾った堀さんの初々しい演技とともに、「私はドジでのろまな亀です!」や「やるっきゃない!やるっきゃない!やるっきゃない!」など癖の強いセリフに注目が集まると、多くのモノマネや流行語にも取り上げられ認知度を上げた。
千秋はパイロットだった亡父の影響でスチュワーデスを目指すが、極端なほど英語が苦手なうえ、接客業なのに人前で緊張したりは序の口で、英語の試験で教官が「阿波踊り」を求めていると勘違いして踊り出すなど毎週驚きの連発だ。
そんな本作でもっとも筆者の印象に残っているのが、村沢の婚約者・新藤真理子の手袋シーン。ピアニストを目指していた真理子は村沢とのスキー事故で両手が義手となってしまい、その憎しみから村沢の目の前で「浩、これを見て」と黒い革手袋を口を使って外すのだ。“キリキリキリ”という不気味な音が響く、真理子役の片平なぎささんが演じたこのシーンは、ぞっとするほど魅力的でもあった。
■二重人格となった少女がお茶の間枠で巻き起こす暴力と復讐
1985年よりフジテレビ系列にて放送された『ヤヌスの鏡』は、宮脇明子さんの漫画を原作に、気弱で真面目な女子高生・小沢裕美(ひろみ)が大沼ユミというもう一つの人格を生み出し事件を起こす物語。
当時16歳だった杉浦幸さんの芸能界デビュー作となった本作。杉浦さん演じる清楚な女子高生・裕美が自由奔放に生きるユミへと変わる際の、キツめのパーマと派手なメイクが印象的であった。
番組は「古代ローマの神・ヤヌスは~」というナレーションではじまり、校内暴力や非行など荒れた若者たち、ナイフによる傷害事件などは日常茶飯事、大沢逸美さん演じる野獣会会長・東涼子がコインロッカーベイビーであったり、裕美を亡き者とするため実父の再婚相手が殺し屋を雇うなどかなりハードな内容だ。
なかでも裕美の祖母・初江を演じた初井言榮さんの存在感は群を抜いていた。第1話からおばあちゃまの虐待ギリギリの説教シーンがたびたびあり、「おまえの体の中には母親のふしだらな血が流れている、おばあちゃまが折檻して汚い血を洗い流してやる」など、孫を「みだら」「ふしだら」と罵るセリフはどれも強烈。20時のお茶の間枠とは思えない内容のうえ、最終回の絶命シーンはまさに圧巻だった。