■愛する人の死は人生観をも狂わせる… 『北斗の拳』サウザー
原作:武論尊氏、作画:原哲夫氏の『北斗の拳』に登場するサウザーは、南斗鳳凰拳の伝承者。ケンシロウを肉体的にも精神的にも追いつめた悪党である。人々を守ろうとしたシュウを痛めつけ、最後にピラミッドのような“聖帝十字陵”の頂点で圧死させたやり方は残酷そのものだった。
サウザーはもともと捨て子であり、南斗鳳凰拳伝承者のオウガイに拾われて育てられた。オウガイは厳しくも愛情深い人物で、サウザーもそんな彼を心から慕うようになる。
そんなある日、15歳になったサウザーに“目をふさいで敵を倒せ”という真剣勝負が課せられた。「真の伝承者への道に情などないのだ!!」と言われた彼は、全力を出し見事相手を倒す。しかし目隠しを取ると、そこで倒れていたのは愛すべきオウガイ……。そう、南斗鳳凰拳伝承者になるには、先代を殺さなければならなかったのだ。
サウザーは自分の手で大切な存在を殺したことに絶望し、“こんなに悲しいのなら 苦しいのなら 愛などいらぬ!!”という考えのもと、悪の道を突き進んでいく。
しかしサウザーはその後ケンシロウとの戦いに敗れ、「哀しみや苦しみだけではない おまえもぬくもりをおぼえているはずだ」と諭される。その言葉を聞いた彼は子どものような表情に戻り、オウガイの亡骸に寄り添って生涯を終えるのであった。
愛する者が思いもよらぬ形でこの世を去ると、人は怒りと悲しみに飲み込まれ、その心も迷いに包まれる。しかし自暴自棄になったとして何を得られるだろうか……。サウザーの人生は、逆境こそが試練であり、成長の機会でもあることを我々に教えてくれる。
人気漫画に出てくるキャラクターのなかには、実は壮絶な生い立ちを抱えていることも多い。彼らが内に秘める壮絶な過去や背景こそが、読者の心をつかみ、熱狂させるのであろう。
また漫画とはいえ、壮絶な過去から這い上がってきた彼らのストーリーは、現代社会においても励みになる。試練を経験したからこそ苦難を乗り越える力は強く、困難に向き合えるはずだと信じたい。