危険を察知する能力として、いわゆる「五感」、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚は非常に重要なものだ。バトル漫画やアニメには、五感の一部が鋭くなっているキャラクターがいる。中でも多く利用されているのは視覚や聴覚、あるいは触覚ではないだろうか。それに比べて、比較的注目されることが少ないのが味覚や嗅覚だ。
人間の五感にはそれぞれ肉体的な限界があり、たとえば嗅覚において優れた動物、犬のようにはなれないのが常人だ。しかし、キャラクターによっては犬並みかそれ以上の嗅覚を持つと思われる者も時にいるのだ。ある意味では特異体質とも言えるが、そうしたキャラクターたちは、その特殊な能力によって独自の危機回避をすることがある。そこで今回は、人並み外れて優れた臭覚によって危険を免れることができるキャラクターを紹介していきたい。
■相手の感情まで匂いで察する炭治郎
吾峠呼世晴氏による『鬼滅の刃』(集英社)は、現在「刀鍛冶の里編」がアニメ放映中で、主人公炭治郎の諦めずに鬼に立ち向かう姿は、何度見ても胸を熱くさせられる。そんな炭治郎が発揮する他のキャラに負けない特異な能力のひとつ、それが嗅覚だ。仲間の伊之助は優れた触覚によって空気の微かな揺らぎすら感知することができるが、炭治郎は匂いで危険を察する。しかも驚くべきことに、相手の感情までをも嗅覚によって見抜いてしまう。
炭治郎の嗅覚にまつわるエピソードはいくつかあるが、たとえば、皿を割った犯人を皿の匂いを嗅いだだけで見つけたり、匂いだけで夜の山の中を迷わず移動して目的地へと向かうことができたりと、その鋭さには驚いてしまう。
そんな炭治郎の嗅覚は、もちろん戦闘にも役立つ。隙の匂いを嗅ぎ分けることで「隙の糸」を知覚して、鬼の首を斬ることができるのだ。相手の出す気配を匂いで嗅ぎ分けられるのはいったいどういう仕組みなのか解釈が難しいところだが、おそらく周辺の空気の変化を嗅覚で感じ取っているのだろう。そのため、敵の本体がいくら身を隠してもそれを瞬時に見抜くことができる……なんて便利な能力だ。
この嗅覚のお陰で炭治郎は何度も窮地を脱し、普通の隊士なら死んでしまうような状況でも生き残っている。炭治郎の剣術の腕前が柱には及ばないのは明らかだが、それを嗅覚で補っていると言えるだろう。
■危険な戦場を匂いで生き延びる霞拳志郎
原作:堀江信彦氏、作画:原哲夫氏、監修:武論尊氏による『蒼天の拳』(新潮社)の主人公、霞拳志郎も類まれなる嗅覚の持ち主である。拳志郎は北斗神拳伝承者なので、優れた嗅覚なんて必要ないのではと思ってしまう。しかしそれには、拳志郎と『北斗の拳』のケンシロウとでは、時代背景や舞台の設定が大きく異なっているということも関係しているだろう。
拳志郎が活躍する舞台は、ギャングや軍人がひしめく上海だ。ここでは、銃弾や砲弾、爆弾が飛び交うため純粋な拳法の力だけで制圧することも難しく、常に危険と隣り合わせなので、それをいち早く察知する能力が必要だ。そんな状況で拳志郎の嗅覚は、仕込まれた爆弾までをも見抜いてしまう。それによって、張太炎が仕掛けた爆弾を、部屋に入る前に察知して避けることができたのだ。
拳志郎の嗅覚はそれ以外にも、相手の痕跡をたどることにも役立つので、仲間の危機にはすぐに駆けつけられるなど、まさに犬並み。しかしこんなにも鼻がきくのにヘビースモーカーでもある拳志郎。タバコの匂いで鼻がやられてしまわないかと余計な心配をしてしまったものだ。