あらゆるオタク文化が排除された2011年の日本を舞台に、「好きなものを、好きなだけ好きと言える」世界を取り戻すべく現れた魔法少女たちを描く『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』(以下『マジデス』)。
LAを拠点にアート活動を始め、有名ラッパーなどとコラボしてきた新進気鋭のアーティストJUN INAGAWAが原案の異色のアニメだ。若き革命者を支える魔法少女・アナーキーを演じるファイルーズあいが、「運命的に出会った」と語る、この役への向き合い方を聞いた。
■「好きなものは好き」と言うために
強い意志とタフな精神、しなやかな感受性を持つ『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』の空条徐倫、尊大で好戦的だが素直な『チェンソーマン』の魔人・パワー。近年のアニメで強いインパクトを残したキャラクターたちを演じていたのが、情熱的な演技が印象的なファイルーズあいだ。個性的で美しい声と、ナチュラルかつ高い演技力で唯一無二の存在感を放っている。
彼女が本作で演じる魔法少女アナーキーは、負けず嫌いで口が悪いが、常に全力を尽くす熱い心の持ち主。ファイルーズにしかできないといえるほどのハマり役だ。
「最初にアナーキーの絵を見た時に、この子、私っぽいなって。そう思ってしまったんです」
ファイルーズ自身も、自分とアナーキーに通じるものを感じたのだと、カラリと笑う。
「私のパーソナリティーに合うキャラクターなんじゃないかなって思ったんです。でも、オーディションでセリフを読んだ時には、特にディレクションがなかったんですね。 だからイマイチだったのかなと少し落ち込んだのですが、受かった時はすごく嬉しかったです」
演出の指示もほとんどなく、ファイルーズの演技がそのまま活かされている。それは原案のJUN INAGAWAが太鼓判を押すほどだ。
「JUN先生ご本人も、役にピッタリだとおっしゃってくださったんです。自分の考えた芝居が皆さんの求めてるものと合致してるっていうのはすごく嬉しいし、演じやすいです。でもそれ以上に、私が自然に表現できるアナーキーと出会えたことへの感謝の方が大きくて。大切なキャラクターを私に任せてくださって、本当にうれしい限りです」
謙虚さのなかにある、表現者としての強い意志。言葉の端々から伝わってくるパワフルさ。ファイルーズとアナーキーには、確かに重なる部分が多い。
「アナーキーは、ネガティブな気持ちを全部取っ払って真っすぐに突き進んでいる女の子です。誰がなんと言おうと、私の好きなものが私にとっての正義なんだ、って。大人になると、自分が好きなものに無意識にフィルターをかけてしまうことってあると思うんです。年齢を重ねていくと、子ども向けのアニメが好きと公言するなんてよくないのかな、とか人の声が気になるな、とか。アナーキーは、本当の自分をさらけ出せない、いろんなオタクと呼ばれる人たちにすごく勇気を与える存在。そんなところが好きです」
『マジデス』の舞台は、あらゆるオタク文化が排除され、それに疑問を持たない人々が自我を失ったかのように生きている時代。かろうじて生き残ったオタクたちが、「好きなものは好き」と言うために立ち上がるというストーリーだ。
「ここまでサブカルチャーに特化して、JUN先生の作風を濃縮還元した作品って珍しいですよね。作品づくりをする上では、やっぱりどうしても、 数字というものを意識せざるを得ないですから。確実にヒットを狙っていくというか。
でも本作は、売れる売れないとかじゃなくて、これが僕たちの見せたいものなんだっていうのを、思いっきりさらけ出してる感じがすごくするんです。そういうオタク魂というか、熱意に心を掴まれていたので、私もいちオタクの端くれとして、ぜひ携われたらなって思っていました」