スポーツ漫画には、チームメイトとの友情や絆、練習の中で培ったチームワークや、多彩な戦術など、様々な醍醐味がある。中でも、単純なスペック比較では主人公(あるいは自チーム)に優る相手に対して、いかに知略や戦略を駆使して攻略するかという展開は、やはり読んでいてハラハラドキドキするものだ。そこで今回は、スポーツ漫画で頭脳派キャラが魅せた印象的な戦略を3つ紹介したい。
■怒涛のノーハドル戦法で大金星を挙げた『アイシールド21』蛭魔妖一
まずは『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載されたアメフト漫画『アイシールド21』(原作:稲垣理一郎氏、作画:村田雄介氏)から、主人公・小早川瀬那が所属する泥門デビルバッツの司令塔、蛭魔妖一を紹介したい。
蛭魔の真骨頂が発揮されたのはクリスマスボウルでの帝黒アレキサンダーズ戦だ。高校オールスターが揃う最強のチーム帝黒には、関東の強豪を打ち破ったセナのランもモン太(雷門太郎)のキャッチも通用しない。状況を打開するべく繰り出したセナとモン太のコンビ技「聖なる十字架(クリスクロス)」も失敗に終わり、後半残り10分で35点差とまさに崖っぷちにまで追い込まれる。
ここで蛭魔が打ち出したのが「ノーハドル戦法」だ。
アメフトでは、通常は攻撃前に「ハドル」という作戦会議を行うが、守備側はこの時間を利用して陣形を組む。しかし泥門は、ハドルをあえて行わず速攻でプレーすることで、帝黒の守備陣形が組み上がる前に攻め込んだのだ。
当然、ハドルができないと連携した攻撃は不可能。そこで蛭魔は今まで戦ったチーム名+3桁の数字で作った暗号で作戦を指揮する。
怒涛の追い上げの中で、帝黒も暗号の解読を進めていく……のだが、結局暗号に意味はなく、実は作戦指示はベンチからマネージャーが出していただけ。ドツボにハマった帝黒は、まんまと蛭魔の奇策にハメられたわけだ。
相手チームの帝黒だけでなく、読者すらも見事に騙してみせた、蛭魔のトリックスターぶりの本領が見られた試合だった。