■弱者ゆえの策に長けるが最後はアツい真っ向勝負『弱虫ペダル』手嶋純太

週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載中の渡辺航氏によるロードレース漫画『弱虫ペダル』にも策士がいる。主人公の小野田坂道たちが2年生時に総北高校自転車部の主将を務めた手嶋純太だ。

 小野田や今泉俊輔、鳴子章吉という1年後輩の世代がそれぞれに個性的な粒ぞろいの面々であるのに対して、手嶋には決して突出した自転車の才能があるわけではなく、実際2年生時にはインターハイのメンバー選出を兼ねた合宿で1年生トリオに破れてレギュラー入りを逃している。しかし、そんな彼にも強みはある。それは、冷静な判断力と状況を把握して分析できる頭脳だ。

 常に一歩引いたところから、自他のチーム戦力を比較しつつ、刻々と変化していくレースの状況を客観的に捉えて勝つための道を模索する。それは、自分が弱者であることを充分すぎるほど知っているからこそできることだとも言える。キャプテンとして臨んだ3年時のインターハイ3日目には、レース展開から逆算して箱根学園のエース真波に対して、早い段階で総北のエースである小野田を当てて潰しにいくオーダーを出すなど、自転車競技の最大の目的である「チームで勝つ」ことに徹するリアリストでもある。

 ただ一方で、彼の作戦は最終的に「真っ向勝負に持っていくため」に立てているように思えるのが面白いところ。相手を出し抜いて終わりというのではなく、最後は実力勝負で真正面から戦いたいという気持ちも持っていて、策士キャラには珍しく熱さを兼ね備えたキャラクターだ。

■自分の武器を最大限活用して王者に肉薄した天才『黒子のバスケ』緑間真太郎

 最後は藤巻忠俊氏のバスケ漫画『黒子のバスケ』から。キセキの世代の1人、緑間真太郎だ。

 緑間はコートのどこからでも邪魔されなければ100%シュートを決めることができるチート能力と、火神大我と1on1で普通に渡り合うほどの圧倒的な実力を持っている。

 そのため自分以外を信じず、スタンドプレーが目立ったが、黒子たちに敗北してからはチームプレイを意識するようになる。そんな彼の集大成がウィンターカップ準決勝、赤司征十郎率いる洛山戦だ。個の力では圧倒的に劣る秀徳だが、緑間は自身の「スタンドプレーをする選手」という印象を逆手に取り、進んで囮になる。

 また、ボールを持たずシュートモーションに入り、シュート直前でパスを受ける空中装填式3Pシュートを披露。ボールを持っていなくとも緑間がシュートモーションに入ると相手はマークに付かなくてはいけないが、それをフェイクにして他の味方にパスを出すこともできる。このシンプルな二択を突きつけることで、あと一歩のところまで王者・洛山を追い詰めた。

 余談だが、ほぼ垂直に高い軌道を描いてゴールリングの中央を射貫く、正確無比なシュート能力を持つ緑間ならではの3Pシュートは、そのあまりの特異性ゆえに、角度や速度、高度など物理的な側面から考察されることも多い。一説によると、なんと彼のシュートの最高到達点は約13メートルにもなるとか。知的な緑間だが、実はパワー系キャラなのかもしれない。

 あえて今回は対象とはしなかったが、さすがに国民的スポーツなだけあって数が多い野球漫画では、複雑なルールを戦略として利用する展開がよく見られる。野球漫画の金字塔である水島新司氏による『ドカベン』は言うに及ばず、たとえば甲斐谷忍氏の『ONE OUTS』では全編通して頭脳戦が繰り広げられていて、その手の漫画が好きな人にはオススメだ。あなたが印象に残っているスポーツ漫画の神戦略はあるだろうか?

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