漫画の単行本と言えば、作者によって書き下ろされる“表紙絵”のデザインも見どころの一つだ。作品を象徴するキャラクターや世界観が描かれるものだが、ときにしてこの表紙絵が差し替え、変更になる場合もある。さまざまな理由で単行本の表紙絵が変更された作品たちについて見ていこう。
■男らしさの“黒”からスタイリッシュさ重視の“白”に…『東京リベンジャーズ』
2017年より『週刊少年マガジン』(講談社)にて連載された和久井健氏による『東京リベンジャーズ』は、ヤンキー漫画に“タイムリープ”というSFの要素を取り入れた斬新なストーリー展開が話題となった。
そんな本作だが、実は単行本の1~4巻は、もともと異なったデザインをしていたことをご存じだろうか。
通称“黒表紙”と呼ばれる当初のデザインは、黒を基調とした背景に『東京リベンジャーズ』のタイトル文字と、作中でも重要な意味をもたらす“卍”が刻印されている。タイトル部分とイラスト部分が明確に分かれており、その色使いから従来の“ヤンキー漫画”と同様のどこか硬派なイメージだ。
そんな本作だが、5巻以降のデザイン変更に合わせ、1~4巻のデザインも刷新されることとなった。リニューアル後の表紙は通称“白表紙”と呼ばれており、白色を基調とした背景と登場人物の立ち絵、そしてイラストと交差するように配置されたタイトルが印象的である。
かつての“黒表紙”に比べると、“白表紙”はキャラクター一人一人に焦点が当たられており、よりスタイリッシュな印象だ。
この黒から白へのデザイン変更は、本作がただの“ヤンキー漫画”ではないことから、より多くの読者層に受け入れてほしい……という狙いがあったという説が有力である。実際、白表紙にしてからというものの売り上げが伸び、とくに女性の読者層を多く獲得できたということを、講談社の担当編集者がインタビューで明かしていたようだ。
本作は時間を遡り未来を変える……という、どこかサスペンス色も強い緻密なストーリー構成が売りにもなっている。そんな従来のヤンキー漫画とは異なった本作独自の“色”を前面に押し出した、実に洗練されたデザインと言えるだろう。
■“大将軍”を目指す少年たちは10年の時を経て生まれ変わった『キングダム』
2006年より『週刊ヤングジャンプ』(集英社)にて連載されている『キングダム』は、古代中国の春秋戦国時代末期を舞台に、“天下の大将軍”を目指す少年・信の乱世での活躍を描いている。
作者である原泰久氏がサラリーマン時代に体験した“組織”の美学を注ぎ込んでいることもあり、戦乱の世を生きるさまざまな人間の思想が絡み合う濃厚な群像劇が本作のうりとなっている。
そんな本作は今もなお連載が続いている長寿作品となっており、連載10周年には単行本1〜3巻の表紙を、作者があらためて書き下ろすという特別企画が催された。構図自体は当時のカバー絵そのままに、細部を練り直した特別仕様となっている。
10年で洗練された画力によってイラストが生まれ変わるのはもちろん、2、3巻のイラストでは群衆のなかに信や尾平、バジオウ、タジフが描かれていたりと、作品を読み込んだファンだからこそ気付ける新たな仕掛けが随所に組み込まれている。
なお、このリニューアルした表紙はいわゆる“幅広帯”となっており、帯を外すと従来のデザインの表紙となっているため、以前のデザインについても引き続き楽しむことが可能だ。
2023年の現在も本作の勢いはとどまるところを知らず、多くのファンを魅了し続けている。これからも“大将軍”を目指す信の旅路と、ますます苛烈になっていく戦の展開から目が離せない。