■過去最高とも言えるシナリオの完成度の高さ

 ネタバレになるので終盤の展開には触れないが、各所で言われているように本作はシナリオの完成度が高い。

『赤・緑』や『金・銀』は最強のトレーナーを目指す道中で、悪の組織と戦うという単純明快な王道ストーリーだった。だが、本作は物語だけでなくキャラクターの心情描写が細かく、いろいろな角度から楽しめるようになっている。

 ジムバッジを集める過程でネモと競い合う中では、彼女の強さゆえの孤独を知ることができる。おそらくパルデア地方最強であるネモは、今までのポケモンシリーズの主人公、プレイヤー自身の投影であると言えるだろう。

 ゲーム内で戦えるトレーナー全てを倒してライバルがいなくなった、そんな中で現れたのが、自分と同じ才能を持った主人公というわけだ。『ポケモンSV』のストーリーは過去や未来がテーマにあるが、ネモはまさに今までの私たちプレイヤー、過去の姿なのかもしれない。

 対してペパーは、ポケモンシリーズではお馴染みの博士の息子。自分に振り向いてくれない親に反感を覚えつつも、相棒のためにスパイス探しに奔走する。スパイスが本当に相棒の怪我に効くのか分からない中でも、希望を持って進む健気なペパーに胸を打たれ、ついつい「レジェンドルート」を先にクリアしたプレイヤーも多いのではないだろうか?

 さらに、「スターダスト★ストリート」の中で明らかになるスター団の真相にも心を動かされた。

 彼らはアカデミーを牛耳るいじめっ子だと思われていたが、実は……これ以上はここでは控えたい。スター団を発売前に見た筆者は「ああ、ロケット団的な悪い奴らポジションか」という第一印象を抱いていたが、実際にプレイしてみるとそれは全くの間違いだった。そもそも、スター団の目的自体は作品が始まった時点ですでに終わっていたというのも、今までの悪の組織とはアプローチが全く違っていて面白い。単純に悪い奴らだったロケット団とはまた違う、むしろ現代の学校にいてもおかしくない境遇なのがスター団なのだ。

 この記事のタイトルでは『赤・緑』や『金・銀』と比べると銘打ってはみたものの、こうしてひとつひとつ見ていくと、もちろん作品それぞれに良さがあり、ポケモンシリーズの長い歴史の中で連綿と受け継がれてきたものの積み重ねをあらためて実感した。

 ポケモンシリーズ初のオープンワールド化というチャレンジングな作品となっている『ポケモンSV』だが、間違いなくそうした過去作の良さを継承しながら、それをさらに一段高いレベルにまで押し上げた正統進化であると言えるだろう。ポケモンシリーズから離れていた人にこそ、ぜひプレイしてほしいと思えるソフトだ。

  1. 1
  2. 2