■金田朋子『BLACK LAGOON』のグレーテル

 バラエティ番組などで金田朋子を一度でも見たことのある人は、“なんかヤバイ人”というイメージを持っているかもしれない……。機械音のような超高音ボイスと異様なハイテンション、そして周囲をドン引きさせるエピソードや迷言の数々からは、“金朋地獄”という言葉まで誕生した。

 その金田が本気を出したと話題になったのが、2006年に放送された『BLACK LAGOON』だ。架空の犯罪都市を舞台にしたクライムアクションで、ときに目を背けたくなるような裏社会の実情が描かれる。

 金田が演じたのは、双子の子どもの殺し屋“ヘンゼルとグレーテル”のグレーテル。無邪気な笑顔で残忍な殺しを楽しむ快楽殺人者だが、その背景にはルーマニア革命前後の暗く重い歴史が絡んでいる。

 それもあってか、グレーテルは冷たく無感情な語り口ながら、終始どこか悲壮さも漂わせていた。一方で同じ闇社会に生きる者に啖呵を切るシーンでは、憎しみと軽蔑がこもる。金田の代表作といえば『おしりかじり虫』だが、深い闇を感じさせる演技には、その片りんも見えなかった。

 ちなみに、グロいのが苦手な金田は映像を見ながらアフレコすることができず、後ろを向いて収録したそうだ。……は?どういうこと?どうやって?……次々と疑問が浮かんできて、気がつくと“金朋地獄”にからめとられている。これも彼女の一種の才能なのかもしれない……。

■青山吉能『ぼっち・ざ・ろっく!』の後藤ひとり

 最後に、2022年10月にテレビアニメ化を果たし、シリーズ累計発行部数が100万部を突破した(2023年1月時点)人気作品の『ぼっち・ざ・ろっく!』から、青山吉能の演技を紹介する。

 青山が演じる後藤ひとり(通称“ぼっち”)は、人気者になりたい一心でギターを始めた重度の人見知り少女だ。ギターの腕は上達したが、バンドどころか友達すら一人もできないまま高校生になったぼっち。ひょんなことから女子高生バンド“結束バンド”のギタリストになり、思いがけず表舞台を経験していくことになる。

 本作では、ぼっちが青春コンプレックスを刺激されたときや陽キャの光にあてられたとき、作画が崩壊するシーンが特徴的だ。同時にネガティブな妄想を暴走させてブツブツと早口で話し続ける演技は、まさに絵に描いたような”コミュ障”を彷彿とさせる。

 そのなかでも話題になったのが4話。陽キャ御用達のSNS“イソスタ”のキラキラ写真を見て卒倒したぼっちは、追い打ちをかけるようにイソスタのアカウント作成を勧められ、ついに壊れた機械のようにビリビリにショートしてしまう。このとき、ぼっちはディストーションをかけたギターみたいな歪み音を発する。誰もが加工音か機械音だと思っていたこの音が、実は青山の生声だったというから驚きだ。

 完璧なコミュ障演技どころか、そこから発生する人間離れした音まで演じ切るところに、青山の声優魂を感じる。

 

 こうして振り返ってみると、あらためて、声優ってすごい。日本を代表する産業の一つ“ジャパニメーション”に魂を吹き込む彼らの仕事を、五体投地で讃えたい。

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