■殺人鬼ジャックに感情を教えて散った『終末のワルキューレ』ヘラクレス
最後に紹介するのは、原作:梅村真也氏、構成:フクイタクミ氏、作画:アジチカ氏による『終末のワルキューレ』から。
本作は、人類の存続を懸けて人類史上最強の英傑たちが神と戦うバトル漫画だ。主人公・ブリュンヒルデの視点は人類側で描かれ、人類代表の過去の著名人VS神々という壮大な世界観で展開されていく。
全13番勝負のなかでも殺人鬼のジャック・ザ・リッパーVS神ヘラクレスの対戦は、光と闇がぶつかり合うような印象的な戦いだった。
幼少期の母との関係や人間の汚さを見てきたことにより根底に深い闇を持つジャックは、人が見せる“恐怖の色”が芸術的に美しいと感じる人物で、“感情の色”を見る能力を持っている。
戦いのなか、ジャックは実の母と同じ“感情の色”をヘラクレスに感じていた。そしてヘラクレスも、ゆがんだ過去を持つジャックをまるごと容認するかのように、「オレがお前を…苦しみから 救ってやる」と言うのだ。
戦いのラストでは、左手を切り落とされてもなお「オレは人間を愛している」と言い、反撃をせずにジャックの欺きの一撃を受け止めるヘラクレス。そして、憎しみや復讐に捕らわれていたジャックを抱きしめ、微笑みながら散っていくのだ。
消滅するまで“感情の色”が変わらなかったヘラクレスの姿を見て、ジャックは自分が負けたことを認める。そして、今までに感じたことのなかった“哀しみ”の感情を体験することができたのだった。
ヘラクレスは人類の敵として登場したわけだが、ジャックの狡猾さを受け止める彼の姿に懐の広さを感じ、胸が温かくなるような気持ちになった読者は多いと思う。
敵ながらも敬意を感じた戦闘を紹介してきた。あなたが思い浮かべる漫画で、敬意を持っているキャラクターは誰だろうか。架空のキャラクターであれど、それぞれが持つ信念や正義を感じたとき、勇気や優しさをおすそわけしてもらえるような気持ちになれるはずだ。