■たった一言もまたよし

 語感の良さや異国情緒を感じる技名も言ってみて楽しいが、なんだか難しげな響きの単語を一言シンプルに発するのも良い。

 最近では、吾峠呼世晴氏の『鬼滅の刃』。我妻善逸の「霹靂一閃(へきれきいっせん)」をフリつきで言っている子どもをたまに見かけたが、これは大人でも口に出してみたくなる響きではないだろうか。「霹靂」という言葉と「一閃」という言葉の組み合わせが非常に美しい。

 また、同時期に話題になった芥見下々氏の『呪術廻戦』から、五条悟の「無量空処(むりょうくうしょ)」も、短いがつい言ってみたくなる必殺技だろう。仏教用語を連想させるどことなく静かで落ち着いた雰囲気だ。実際に技を繰り出すときの言い方やフリにも、善逸ほどの派手さはない。五条悟のように、静かに指をからめながら最強の余裕を醸し出しつつ呟きたい。

 

 大人になっても口唇周辺の快感を求めるのは人の性である。自分の口に一番気持ちが良く、それでいて少年心をくすぐられるような必殺技を見つけて、気分が落ち込んだときにはそれを唱えるなり叫ぶなりしてみてほしい。それで一時でも瑞々しい感情が甦ったら、明日からもまた頑張れそうな気がする。

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