■修行中だった尼さんたちの叫び声…

 続いて紹介するのは「飯降山」。ファンの間でもトラウマ回と名高い作品だ。これは、1994年に放送された話で、脚本は『ぼのぼの』で知られるいがらしみきお氏が手掛けている。

 この話は、3人の尼さんが山に入って修行していると、ある日突然空からおにぎりが3つ降って来るというもの。尼さんたちは次第に1人1個のおにぎりだけでは物足りなくなってしまったのだろう、年下の尼さんを、一番上と二番目の尼さんが崖から落として殺してしまう。

 こうして分け前が増えると思ったものの、翌日からおにぎりは、3つから2つに減ってしまう。そして、もっとも信仰心が強く笑顔が素敵だった一番上の尼さんが、もう1人の尼さんも殺してしまう。しかしそれ以来おにぎりが降ってくることはなくなってしまうという話だ。

 もっともしっかりした人が、笑顔のままお経を唱えながら殺人をするというショッキングな内容に加え、そもそもなぜおにぎりが落ちて来たのかというミステリアスな疑問が残るこの話。最初はつつましかった人間が欲望にとらわれて猟奇的な道を選ぶ恐ろしさは、子ども向けではなくむしろ大人向けだといっていいだろう。

 尼さんによる殺人シーンも、山の遠景に「ギャー」という女性の悲鳴が聞こえるのみという、直接的ではない表現が逆に怖い。

■恍惚とした表情のまま舌を抜かれて…

 最後は「十六人谷」。1983年に放送された話で、切り倒された柳の精が人間に復讐する話だ。

 ある日弥助という木こりは美しい女に「柳を切り倒すな」と頼まれる。しかし、弥助の制止もむなしく、木こりらは柳を切り倒してしまう。その夜弥助が目を覚ますと、昼間の女がそこにいた。女は寝ている15人の木こりの舌をズルズルと音を立てて吸いとり、舌を引き抜いて殺していた。

 50年後、たった1人生き残ったおじいさんになった弥助が、ある若い女にこの話の一部始終を聞かせる。次に家族が弥助の様子を見にきたとき、弥助は恍惚とした表情のまま舌を抜かれて死んでいたというストーリーだ。

 タイトルの「十六人谷」に対して話の途中で死んだ木こりは15人という、オチの展開を想像させる不穏なストーリーに、女が口元から血を垂らしながら木こりの舌を抜いていくエロティシズム漂うシーンが印象的なこの話。

 絵も話も怖いが、この話がもっとも怖いのは話全体に漂うじめじめとした空気感だ。暗い青色で彩られた殺りくシーンも恐ろしい。

 そして、50年経って柳の精がやってくるというところも、「どうして今になって」というただならぬ想像力をかきたてられる。

 大人になって見てみると「怖い」以外の感情や気づきもあるが、とにかく当時は怖かった話の多い『まんが日本昔ばなし』。あなたのトラウマの原点にも『まんが日本昔ばなし』があるかも?

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