■複雑な生い立ちをもつ聖堂騎士団の騎士団長「マルチェロ」
『ドラクエ8』に登場するマルチェロは、仲間キャラの1人であるククールの異母兄である。ククールとマルチェロの父であるドニの領主は、跡取りほしさに正妻であるククールの母親だけでなく、メイド(リメイク版では、正妻と出会う前にかつて付き合っていた平民の娘という設定に変更された)にまで手を出してしまう。そして、メイドの子として生まれたのがマルチェロだった。しかしククールが生まれた途端、マルチェロと母親は無一文で家を追い出され、母親は苦労の末に病死してしまう。こうした生い立ちからマルチェロは父親だけでなくククールのことも憎んでいる。
その性格は狡猾で野心家。出世するために手段を選ばず、主人公たちに濡れ衣を着せて流刑にしたり、汚職に手を染めたりとあくどい描写があり、最終的には法皇を暗殺し、新法皇にまで就任する。しかし主人公たちとの戦闘に敗れ、憎んでいるククールに助けられると行方をくらましてしまう。
相当な悪事に身を染めていながらも、マルチェロは絶対悪とは言いきれない人間性をもったキャラクターと言える。重い過去に腐らずに孤児から上り詰めた実力や強い意志、リメイク版で新たに追加されたククールとの絶妙なやり取りなどの描写から憎みきれないと感じた読者も多いのではないだろうか。
■孤児院を守るために手段を選ばない仮面武闘会の前回王者「ハンフリー」
『ドラクエ11』に登場するハンフリーは、グロッタの町にある教会で孤児院を経営している神父兼仮面武闘会の前回チャンピオンだ。強いだけでなく心優しさを併せ持つ彼に、魅力を感じた読者が多いのではないだろうか。
しかしその本性は、孤児院を守るためならば他人の命さえいとわない悪人。本来のハンフリーには仮面武闘会で優勝するほどの実力はなく、孤児院の経営は困窮してしまう。孤児院の運営を続けるために仮面武闘会で賞金を得るしかなかったハンフリーは、魔物アラクラトロの手先として闘士たちをさらい、アラクラトロに献上していたのだ。そしてハンフリーは、アラクラトロが闘士たちの力を抽出してつくった「強者のエキス」を試合前に飲むことでドーピング効果を得て、優勝していたのである。
この事実を主人公たちに突き止められたハンフリーは反省するどころか「この秘密を知られたからには お前たちを生かしておくワケにはいかん!」と口封じまで企む。最終的にアラクラトロを主人公たちが倒し、ロウの温情で孤児院の運営に見通しがつくと涙を流しながら謝罪。その後は町の人たちにも罪を告白し、引退したハンフリーは全面的に許されたのだった。
ハンフリーの所業を許すことができるのか、憎みきれないキャラクターだと感じるのかはプレイヤー次第であるだろう。しかし自らも孤児として育ち、多くの孤児の面倒を一人で見てきた彼の苦労や葛藤を考えると心苦しくなるキャラクターだと言える。
今回は“なぜか憎めない”それぞれ異なるタイプのキャラクターを3名紹介した。絶対悪として描かれているキャラクター以外、簡単に悪人とくくることは非常に難しい。果たして、彼らは憎むべき悪なのだろうか、それとも許すべき人なのか。プレイした人の数だけ答えがあるであろう『ドラクエ』の奥深さに、未プレイの方は触れてみてはいかがだろうか。