■早見沙織の評価を確固たるものにした「わかんないよ!」

 続いては、望公太氏のライトノベルを原作とした『異能バトルは日常系のなかで』。2014年のアニメ7話では、中二病の主人公・安藤寿来の幼なじみである櫛川鳩子が彼にしびれを切らす場面がある。

 いつも中二病的な話ばかりする寿来の話を静かに聞いていた鳩子。しかし、ついに長年我慢してきた感情を爆発させてしまう。そのセリフ量はなんと約1000文字。「わかんないよ。わっかんないよ! 寿君の言ってることは一つもわかんないよ! 寿君良いって言ってることは何がいいのかわかんないよ! わかんない! 私にはわかんないの!」というセリフから泣いたり怒ったり相手を責め立てたりしながら、「中二病の何がいいかわからない」とこれまでの感情をぶちまけるのだ。

 大好きな寿来と同じものを楽しめないことに悩んでいた彼女。しかしそれでも彼のことを理解しようと、長年彼の話を必死に聞いてきていたのだろう。

「右腕がうずくと何でカッコイイの? 自分の力を制御できない感じがたまらないって、何それただの間抜けな人じゃん!」「グングニルもロンギヌスもエクスカリバーもデュランダルも天叢雲剣も意味不明だよ! 何がカッコいいのかぜんっぜんわかんない!」と、一見すると中二病の人なら思わずクスッと笑ってしまうようなセリフなのだが、自分に興味のないことでもこれまで必死に理解しようとしてきたのだと、彼女の愛の大きさが伝わってきて泣けてしまう。

 演じたのは『鬼滅の刃』胡蝶しのぶ役や『SPY×FAMILY』ヨル役などで知られる声優の早見沙織。このセリフの演技力の高さが評価され、彼女は実力派声優としてさらに人気となった。

 最後は、雲田はるこ氏の同名コミックを原作とした2016年、2017年に放送されたアニメ『昭和元禄落語心中』。刑務所帰りの元チンピラの与太郎と「昭和最後の大名人」と称される人気落語家の八代目有楽亭八雲が出会い、作中では幾度か時代を移しながら、名人の孤独で孤高な芸風や生き方、落語についてを描いた作品だ。

 その中でも特に、声優の石田彰演じる八雲の演技が、本物の落語界のプロのものかと見まごうほどにものすごい。そもそもアニメで落語をやるとなると、かなりの知識や独特の言い回しへの慣れが必要だろう。しかし彼の演技には一切の違和感がなく、スッと耳に入ってくる。

 石田自身がもともと落語好きではあったようだが、それにしても落語独自のリズムを見事にものにしていて、つい感嘆の息を漏らしてしまう。

 また、石田がすごいのはこれだけではない。同作では時間軸を過去に移して八雲の若い時代も描かれるのだが、その声が年を重ねるごとに少しずつ自然と変化していくのだ。まさに声優の本気を見せられた名演技と言っても過言ではないだろう。

 声優のすごさを改めて感じるセリフの数々。私たちが違和感なくアニメを楽しめるのは、こういったプロの仕事があるからに他ならない。

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