スタジオジブリ作品には、多くの魅力的な女の子キャラが登場する。とくに”頑張り屋”の女の子が困難に立ち向かいながら自分を奮い立たせて前に進んでいくシーンには、大人になったからこそ共感できる部分も多いのではないだろうか。今回はジブリ作品のなかから、印象に残った名シーンを厳選して紹介していこう。
■張り詰めていた気持ちが緩んだ…『千と千尋の神隠し』ハクのおにぎり
10歳の少女・荻野千尋が、八百万の神様が集まるお湯屋「油屋」で働くことになる『千と千尋の神隠し』。本作で千尋は突然奇妙な場所へ迷い込み、さらに両親を豚にされるという衝撃的な体験をする。
途方に暮れる千尋の前に現れたのは、油屋の主人・湯婆婆のもとで働く少年・ハク。”働かないものは動物にされてしまう”油屋で生き残るため、ハクの導きで千尋は湯婆婆と契約を結ぶことになるのだった。
わけもわからず両親を豚にされ、さらに仕事をしなければならない状況は、10歳の少女にとっては許容しきれない出来事であっただろう。極度のストレスからか、千尋は眠れない夜を過ごしていた。
そんな千尋を外へ呼び出したハク。「千尋の元気が出るよう まじないをかけて作ったんだ」そう言って、ハクが差し出したのが”おにぎり”だった。千尋は戸惑いながらも口にする。
一口、また一口と食べすすめるうちに、大粒の涙を流して泣き始めてしまう千尋……。恐ろしい風貌の魔法使いにたった1人で直談判しに行き、人間を毛嫌いするカエルのような従業員に冷たく扱われる日々……。それでも千尋は両親を助けるため、なんとか仕事をこなそうと黙々と必死に頑張っていたのだ。
ハクから優しい言葉と温もりをもらって思わず感情が溢れ出してしまう千尋のこのシーンは、『千と千尋の神隠し』のなかでも屈指の名シーンとして有名だ。千尋の気持ちが切ないほど分かり、心をぎゅっと掴まれた人は多いのではないだろうか。
■母の代わりに妹を育てる姉『となりのトトロ』サツキが見せた涙
『となりのトトロ』は、草壁サツキとメイの姉妹が”トトロ”や”ねこバス”、”まっくろくろすけ”といった子どものころにしか会えない不思議ないきものたちと出会い、交流していく物語だ。
12歳のサツキは、入院し療養している母親の代わりに4歳の妹・メイの面倒を見ていた。姉が妹の面倒を見るのはそう珍しい話ではないが、サツキは大学の非常勤講師として忙しい父や妹のぶんまで弁当を作ったり、洗濯をしたりと、学校の合間に家事もこなす頑張り屋だ。
しっかり者のサツキだが、彼女がたった12歳の少女であることを感じさせられたシーンがある。それが、母親の入院先である七国山病院から「レンラクコウ」という内容の電報を受け取ったときだ。
「お母さんに何かあったんだ」と不安になるサツキは近所で電話を借り、すぐに大学にいる父親に連絡する。そして、風邪を引いた母親の一時帰宅が中止になったと知らされるのだった。
“風邪”なら大丈夫だろうと大家のおばあちゃんはサツキをなぐさめるのだが、サツキは以前入院したときも“風邪みたいなもの”と言われていたと明かし、「お母さん、死んじゃったらどうしよう」と激しく泣きじゃくる。普段からしっかりしているのは努力によるもので、本質はまだまだ母親が必要な“小さな女の子”だということを思い知らされるシーンだ。
そして実はこのシーンには裏話がある。サツキがあまりに完璧すぎる子どもであることに違和感を覚えたプロデューサーの鈴木敏夫氏は、「サツキは大きくなったときに不良になりますよ」と宮崎駿監督に意見。結果的に宮崎監督はこのシーンをあとから追加し、サツキを”あえて”泣かすことにしたのだそうだ。
鈴木氏の一言によって生まれたこのシーン。確かにここでやっと子どもらしいサツキの一面が見られて、なんだか安心してしまったのは筆者だけではないだろう。