■見知らぬ土地でやってきたスランプ『魔女の宅急便』飛べなくなってしまったキキ
13歳になると魔女のきまりによって見知らぬ町へ移り住み、修行しなければならない『魔女の宅急便』の世界。主人公である魔女のキキは、海の見える美しい町で”空飛ぶ宅急便”を開業し仕事を始めた。
しかし、ある日キキに大きなピンチがやってくる。突然、“魔女の特権”ともいえるホウキで飛ぶ能力を失い、さらに相棒である黒猫のジジの言葉もわからなくなってしまうのだ。ホウキに跨って何度も飛ぼうとするが、結果的にホウキは折れて使いものにならなくなり、心までも折れてしまうキキ……。
宮崎駿監督は本作における“魔法”の定義を、その人が持つ才能と置き換えていたことを明かしており、キキがジジと話せるのもホウキで空を飛べるのも”キキの才能”だから、何かをきっかけにして飛べなくなることもあるだろうと、このシーンについて語っていた。
何が原因でキキが飛べなくなったかは詳しく明かされていないが、キキが成長するうえで大きな変化があったことは明確。やっとの思いで届けたニシンのパイを「私このパイ嫌いなのよね」と言われたからかもしれないし、おしゃれな女の子たちと自分を見比べたからかもしれない。はたまた、淡い恋をしたからかも……と、想像は尽きない。
いずれにせよ、思春期を迎えた年頃の女の子が誰しもぶつかるような葛藤を”魔女のスランプ”として描いたこの名シーン。最後に「落ち込むこともあるけれど、私、この町が好きです」と、キキが両親に向けて綴った手紙に、一歩ずつ前向きに成長していく姿が感じられ感動を覚えた人は少なくないだろう。
ジブリ作品に登場する頑張り屋たち。何度見ても、魅力的な彼女たちに思わず感情移入してしまうし、困難や壁に立ち向かって乗り越えていく様子に元気づけられる。
そんな数々の名作たちを、秋の夜長にあらためてじっくりと堪能してみてはどうだろうか。