■幼い頃の約束を一途に信じ憑りつかれた少女の妄執『笑う標的』

 最後は、1983年に発表された読切漫画『笑う標的』。一途な少女の想いが、いつしか少年への妄執へと変わる学園ホラー作品だ。

 旧家である志賀の分家にあたる高校生・譲の家に、母親が変死し一人になった志賀本家の跡取り娘・梓が同居することになる。譲と梓は従兄弟同士であったが、本家の血筋を残すため6歳のときに“許嫁”となっていた。そのため梓は幼い頃より譲を一途に想っていたものの、譲は許嫁の約束を子どもの頃の話だと本気にしてはおらず、同じ弓道部の同級生・里美と交際してしまう。

 自分たちと同じクラスに転入してきた美しい少女・梓に対し、里美は得体の知れない不気味なものを感じ怯えるようになる。その後、梓の出現により、里美や譲の周辺でいくつもの不審なできごとが起きるようになるのだが……。

 譲と結ばれる事だけを願い続けてきた梓だが、読み進めていくうちに彼女にとってそれがどれだけ大切な約束であったのかがわかるようになる。旧家や餓鬼の存在など梓の周囲は陰鬱なもので溢れており、唯一の救いであった譲への想いも妄執となり果てたのが酷く悲しい物語であった。

 今回紹介しきれなかった作品の一つに、かつて敵対していた男女の転生を描いた伝奇ホラー『忘れて眠れ』があるのだが、これは『犬夜叉』や『境界のRINNE』のベースとなった作品と言われている。

 どの作品も完成度が高く、独特な世界観に引き込まれる「るーみっくわーるど」。貴重なシリアス系の漫画を読むたびに、高橋留美子氏の才能の豊かさに震えてしまう。

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