昭和世代であれば幼少期にブルース・リーやジャッキー・チェンの映画を見終わった後に自分が強くなったと錯覚したことがあるのではないだろうか。中国拳法は見ているだけで我々の心をたくましく成長させてくれる力があるようで、映画だけでなく、カンフー漫画にも同じことが言える。
80年代を中心にこれまで多くのカンフー漫画が生まれたが、やはり特に子どもたちの興味を集めたのは、必殺技を習得するための修行シーンの数々。そこで今回は80年代カンフー漫画の中から、筆者が特に好きだった必殺技や修行方法を振り返りたいと思う。
■『鉄拳チンミ』小さい身体で強敵をなぎ倒す通背拳!
カンフー漫画といえば前川たけし氏による『鉄拳チンミ』を多くの人が思い浮かべるのではないだろうか。チンミ少年が大きな相手を次々と倒していく爽快感だけでなく、とにかく真面目で、ひたむきに弱者を助けていく主人公が魅力的な作品だ。
そんなチンミの必殺技といえば通背拳。これは実際の中国武術でも使われる技で、片側の手のひらを前に出し踏み込みと同時に撃ち抜くことで巨大な壺まで破壊する威力を発揮する。
大林寺の枠では収まりきらないチンミは実戦拳法の達人である東林寺のヨーセン道士もとで修業することになった。病によって自身の寿命が尽きようとしているのを悟ったヨーセン道士は、チンミのために通背拳を一度だけ見せている。
チンミはヨーセン道士の思いに報いるためにも必死の修行を続けるのだが、そう簡単には取得できない。気功と踏み込みの強さ、タイミングが大きなポイントとなり、チンミは激流の川に入って足腰を鍛えようとするが、何度も流されてしまう。
靴を脱ぐことで軸足の親指に力を入れることが大切だと気づいたチンミは「親指一本でたってやる」と言い放ち、何と木の棒に右足の親指だけで立つ修行を始めた。血のにじむような努力の結果、とうとう通背拳を取得したチンミを見届けてヨーセン道士は笑顔でこの世を去った。
通背拳は20年以上も続く同シリーズでいまだに必殺技として描かれており、特に通背拳の使い手として登場したゼイガン砦編のハクサンとの対決が魅力的である。ミト姫を救うべく断崖絶壁の崖登りから悪党たちとの激闘の連続で、体力の限界を迎えていたチンミは凶器として通背拳を使うハクサンに劣勢となっていた。
しかし、死期を悟りながら伝授してくれた恩師に対し、自分の体力の限界など比較にならないと奮い立ち、チンミは見事に通背拳を決めて勝利した。
カッコよすぎるだろうチンミ。