■『拳児』拳法少年が初めて泣きを入れた「馬歩」

 また、好きなカンフー漫画を聞かれて松田隆智氏、藤原芳秀氏の『拳児』を挙げる人も多いのではないだろうか。ランドセルを背負い、チンミよりも幼い主人公の剛拳児は大好きな祖父と拳法の本格修行に入る。しかし、優しかった祖父は一転、站樁(たんとう)という姿勢を取らすと、「そのままじっとしろ」と言い放つのだ。

 この站樁は馬に乗る姿勢を見せることから「馬歩(まほ)」といい(祖父いわく「馬乗り」という)、両腕を少し曲げながら前に突き出し、背中を反らさず膝を内また気味に曲げて腰を下ろしたままの姿勢を取るのだ。

 素人目に見ても分かるが、正直なところかなりキツイ姿勢だ。普通にやれば1分も持たないだろう。大技を習いたいという思いが強い小学生の拳児には到底受け入れられるものではない。案の定泣きべそをかいてしまった。

 しかし、これは中国拳法八極拳における基礎中の基礎であり、祖父はあえて厳しく指導して拳児の心身を鍛えていたのだろう。この「馬歩」は必殺技ではないが、基礎をしっかりと身につけた拳児は、大きな相手にも屈しない気功を身につけていくこととなる。

 ジャッキー・チェンの『酔拳』にも馬歩が出ていた。怠け者でチンピラまがいのジャッキー演じる主人公は面倒ばかり起こすので、とうとう父親から罰の修行を受けることとなる。師範代の監視のもと、馬歩の姿勢で頭と腕には茶碗を乗せられ、お尻の下には熱くなった大きな線香を炊かれていた。

 拳児以上に厳しい環境だが、そこはジャッキー映画。仲間が椅子を用意して楽をすると、父親にバレて勘当される(師範代はなぜか気づかない)というオチがついていた。罰の修行というほどなので、いかに馬歩が厳しいものなのか分かる。

 必殺技を取得するためにも、基礎である馬歩を体得するのは中国拳法の極意といえるではなかろうか。

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