■『鬼滅の刃』のベースとなった初期読み切り作
このように、国民的人気漫画にはベースとなる前身作品があることが少なくない。そこで今回は、大ヒット漫画の前身作品との相違点を検証したい。
竈門炭治郎を主人公に、鬼殺隊と鬼との戦いを描いた吾峠呼世晴氏による大ヒット漫画『鬼滅の刃』にもプロトタイプと呼べる作品が存在する。
読切作品の『過狩り狩り』及び『鬼殺の流』がそうだ。前者は『鬼滅の刃』同様に、剣士が町に潜む鬼を倒すというストーリーで、主人公は炭治郎というよりも、どちらかといえば水柱の冨岡義勇に近いクールな外見の剣士だ。彼は目が見えず隻腕・義足で、全体的に『鬼滅の刃』よりもしっとりとした大人ウケしそうな作品となっている。なお同作には鬼舞辻無惨のベースになったと思われる時川という人物や、『鬼滅の刃』の重要キャラである珠世と愈史郎も登場している。
そして、『鬼殺の流』では、上記に加えて呼吸や鬼殺隊の設定なども登場。しかし主人公は変わらずだった。
それというのも、炭治郎はもともとモブキャラクターとして登場予定だったが、初代担当編集が「明るくて普通のキャラクターはいませんか?」と、主人公には前向きで共感できるキャラクターのほうがいいと提案したという過程が『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』で語られている。この経緯を経て、めでたく炭治郎が『鬼滅の刃』の主人公になったようだ。
主人公が違うというのは大きな相違点だが、世界観はすでに完成されていた様子。『過狩り狩り』は『吾峠呼世晴短編集』に、『鬼殺の流』は『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』に第1話から第3話のネームが掲載されている。