強いキャラが敵を蹴散らす姿は爽快だ。とはいえ、見た目そのままな異能持ちやチートキャラ、ラスボス感満載の体がどデカいキャラが強くとも「ああ、やっぱりな」と当たりまえに感じてしまうだろう。
だが、可憐な少女が大男をなぎ倒し、やさしげな老婆が実は歴戦の猛者ならどうだろうか? 庇護されるべき対象と思っていた彼女たちがとてつもない強さを秘めていたのなら、悪役チームの中でも「最強」だとされる人物が実は女性だと明かされたら、読者はその恐るべきギャップに魅了されずにはいられない。
そこで今回は、これまでさまざまな漫画で描かれた最強キャラの中から女性にテーマをしぼって、彼女たちの魅力を振り返りたいと思う。
■逸刀流最強の女刺客『無限の住人』乙橘槇絵
沙村広明氏の『無限の住人』は、両親を殺された少女・浅野凛が不老不死の剣士・万次を用心棒に壮絶な死闘へと身を投じる物語だ。本作においてヒロイン・凛も強い女性へと成長していくのだが、作中での最強の剣士といえば「乙橘槇絵(おとのたちばな まきえ)」で間違いないだろう。
槇絵は逸刀流二代目統主・天津影久(あのつ かげひさ)が「揺籃の師」と仰ぐほどの剣術の使い手であり、彼とははとこの関係だ。元は春川家の娘であった彼女だが、10歳の幼さで「無天一流の次期統主」と目されていた5つ上の兄を完膚なきまで叩きのめしてしまう。その結果、己を恥じた兄を自害へと追いやり、槇絵は実母とともに春川家から絶縁されることとなった。
彼女の強さが伺えるエピソードがもう一つある。幼少の影久を助けるため槇絵は野犬を真っ二つに切り裂くが、彼女の着物には一滴の返り血もつかないほどの技量を見せつける。ところが、影久の祖父は“女”に助けられたことに激高すると二人を殴りつけ、血の匂いで野犬が集まることを知りながら気を失った槇絵を木の枝に引っ掛け放置。次の朝、影久が駆けつけるもそこに槇絵の姿はなく、代わりに50体以上の野犬が切り裂かれ絶命していたのだ。
生きるため遊女となった母親に習うよう、彼女もまた遊郭に身を沈めていたところを影久に身請けされる。刺客としての初手は夜鷹に扮して万次に襲いかかるも、逸刀流の剣士とは思えない弱さを見せてしまう。しかし、何かを断ち切るよう髪を短くした槇絵は再度襲撃し、三節槍・春翁と驚異的な身体能力で万次を圧倒する。
彼女の戦い方はトリッキーそのもので、不安定な女性用の下駄を履いたまま瞬時に駆け抜け、路地裏など狭い場所で頭上を取るなど戦闘センスの高さが何よりも魅力的だった。