■優等生+問題児の組み合わせが絶妙『チェンソーマン』早川家

 藤本タツキ氏による『チェンソーマン』に登場するデンジ、早川アキ、パワーも、任務というわけではないが上からの命令で共同生活を送ることになった3人である。マキマに拾われて公安所属のデビルハンターとなったデンジは、彼女に命じられ先輩にあたるアキと同居することに。のちに血の悪魔の魔人・パワーも加わり、1人静かに生きてきたアキの生活はガラリと変化してしまう。

 優等生1人に問題児2人というバランスが絶妙で、しっかり者の兄・アキがやんちゃな弟と妹に振り回されているようにも見える。一緒に生活を送るうちにデンジとパワーは多少落ち着きを身に着け、最初は心底うんざりしていたアキも2人との騒がしい生活に慣れていく。作中でマキマにも「早川家」と呼ばれているのが非常にかわいい。

 何気ない日常を積み重ねるうちに、いつしか彼らは互いを大切な存在だと思うようになっていく。掃除が当番制だったり、デンジが自然に皿洗いをしていたり、デンジとアキが並んでテレビを見ていたりと、日々の描写からも生活の様子がうかがえて心があたたまる。

■いつもにぎやかな坂田さんち『銀魂』万事屋

 最後に紹介するのは、空知英秋氏の『銀魂』に出てくる万事屋(よろずや)。1人で何でも屋を営んでいた坂田銀時のところに、まず新八が従業員としてやってきて、続いて神楽が従業員兼居候として転がりこむというカタチで出来上がったトリオだ。さらに後に神楽が拾ってきた犬型宇宙生物・定春も彼らの一員に加わった。

 基本は変人2人(銀時・神楽)に、常識人の新八が振り回される構図だが、ときにはボケとツッコミが逆転したり、全員で悪ノリしたり。ずっと一緒にいるからこそ遠慮のない関係を築き、いつもにぎやかで楽しそうな日常を過ごしている。

 口にこそ出さないが、全員が万事屋という居場所を大切に思っており、誰かが傷つけられようものなら黙っていない。作中では、周りの人間から家族のように扱われることが多く、銀時自身「坂田家」という言葉で自分たちをまとめることもあった。

「かぶき町四天王篇」や「金魂篇」を筆頭に、万事屋の3人の絆の強さがひしひしと伝わってくる長編も多く、彼らを見守るファンにとってはたまらないエピソードばかり。また、ほのぼのした日常回やギャグ回でも、唐突に万事屋の関係性が描かれることもあるので油断できない。

 さらに空知氏の描き下ろしストーリーによる『劇場版 銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ』も、彼らを語るうえでは外せない作品だ。

 ちなみに作者の空知氏は過去のインタビューで、万事屋が疑似家族と言われることについて「あまり他の言葉で代替できる関係性にしたくない」「万事屋には万事屋にしかない絆が描けたらなぁと」と語っていた。さすがは万事屋の生みの親だ……。


 一緒に過ごしているうちに、血のつながりなど関係なしに強い絆で結ばれていく疑似家族。“利害の一致”“誰かの命令”“なりゆき”などなど、その始まり方はさまざまだが、いずれにせよ互いが気を許していく過程は見ていて心あたたまるものがある。既存の枠組みにとらわれない関係性から目が離せない!

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