■レイナの優しさと、ブロヴーダが見せた涙

 どこか表情が読みにくい印象のロブスター型のキメラアント・ブロヴーダが涙するシーンは、キメラアント編のエピローグにふさわしいものだった。

 戦いを終えて、ウェルフィンたちは流星街にジャイロを探しに旅に出た。蟻であることを捨て、人として生きていく彼らと対照的にブロヴーダは迷っていたのだろう。故郷に帰りたかったレイナの付き添いで、NGL自治国に足を運んだが、村人から異形を理由に拒絶されてしまう。

 だが、レイナの母親だけは我が子を見抜き、村人の誤解も解けた。レイナが村人に受け入れられる様子を見て、役目を終えたようにブロヴーダはその場を去ろうとする。しかしそんな彼をレイナが引き留めて「いっしょにごはん食べよ?」と声をかけるのだった。

 本当に何気ない、レイナの一言だがブロヴーダはなんと涙を流してしまう。それまで無機質な師団長としての描写があったから、ここまで感情豊かなキャラだとは思わずギャップを感じてしまった。

 自分には居場所が無いと思っていたブロヴーダを、やさしく迎え入れるレイナと村人たち。戦いだけを繰り返した彼が、初めて自分が居て良い場所を見つけたゆえの涙だったはず。

 現在物語は暗黒大陸に向かう途中に行われる「王位継承戦」の真っ只中。しばらくは余計なエピソードが入る余地もなさそうだが、ウェルフィンやブロヴーダなど、生き残ったキャラたちのその後の姿を見てみたいところだ。

 戦闘描写や心理戦が楽しい『HUNTER×HUNTER』だが、やはりその面白さを支えるのは、緻密なネームによって伝わってくる各キャラクターたちによる心情描写にあると再認識させられた。冨樫氏のツイートによると、現在複数の原稿が同時に進められており、セリフの清書を終えたエピソードもあるとのこと。この先どのような物語が展開されていくのか、楽しみでならない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4