■ヘタクソな自分を変えようと決意した『推しの子』鳴嶋メルト

『週刊ヤングジャンプ』で連載中の赤坂アカ氏・横槍メンゴ氏の漫画『【推しの子】』の鳴嶋メルトは、顔の良さだけでうまくやってきたタイプのモデルだ。メインキャラのひとり・有馬かながヒロインを務めたドラマ『今日は甘口で(通称・今日あま)』の主演俳優として登場した。主演といえど、このドラマは“売りたいモデルをとりあえず出す”というコンセプトで、演技力はかなりお粗末。子役出身で演技力に定評があり、周りのフォローも得意とする有馬ですら、「フォローしきれない!」と困り果てる有様だった。

 しかしこのドラマの最終話には、本作の主人公・アクアもゲスト出演することに。メルトはそのときアクアが見せた演技に圧倒され、自分が“ヘタクソ”なのだと自覚するに至る。今まで顔の良さだけでやってきた彼は、現実を見ずこれまで通りに生きることもできたはずだ。それでも彼はそうしなかった。自分のひどさを認めたうえで、役者として成長するためもがくという苦しい道を選んだのである。

メルトが再登場したのは、有馬とアクアも出演する2.5次元舞台『東京ブレイド』でのこと。『今日あま』から1年も経っていないこともあり、当然すぐに演技が上達するはずはない。しかし彼は本番でアクアの助言を参考に、自分のヘタクソさを逆手にとった演技をする。“再現不可能”と思われていた原作のアクションシーンを完璧に再現してみせ、自分を舐めきっていた観客を驚かせたのだ。さらにその勢いに乗って、渾身の感情を込めた演技を続け、会場中を感嘆させた。その一瞬の演技の素晴らしさは、メルトを嫌っている「今日あま」の原作者・吉祥寺すら涙してしまうほどだった。

自分のみっともなさを直視し、必死に稽古を積むことで、ようやく役者としてのスタートラインに立ったメルト。『東京ブレイド』をきっかけに演技の楽しさに目覚めた彼は、これからどう化けていくのだろうか。

 今回はバトル漫画、スポーツ漫画、芸能界漫画と異なるジャンルの漫画から、努力家キャラを紹介してきた。挫折を味わいながらも自分の武器を磨いていく彼らの姿は、見る者に勇気と感動を与えてくれる。今後どう成長していくのかとワクワクさせてくれるのも、彼らの魅力のひとつである。

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