■神楽がラジオ体操で出会った友だちと交わした約束

 コミックス31巻に収録された第273訓は、ファンのあいだでもとくに「泣ける」という声が多い短編エピソード。神楽が早朝のラジオ体操で、とある少年と仲良くなる話だ。

 少年の名前は本郷尚といい、体が弱く皆と同じように過ごせないことを悔しく思っていた。彼は何か1つでもやり遂げたいとの想いから、ラジオ体操に毎日必ず参加すると決めていた。皆勤賞をめざす神楽は、最初は彼に対抗心を燃やしていたが、やがて一緒に目標を達成しようと励まし合う仲になる。

 しかし、ある日尚は無理がたたって倒れてしまう。それを聞いた神楽はお見舞いに行くと、彼が戻ってくるまで毎日ラジオ体操に参加して待つことを約束した。

 夏が過ぎ、町内のラジオ体操が終わっても、神楽は来る日も来る日もたった1人でラジオ体操を続ける。だが雨天の中ついにラジオが壊れてしまい、心が折れかけた神楽はついに泣き出してしまう。

 そのとき、彼女の前に銀時や新八をはじめとした仲間たちが現れ、大声でラジオ体操の号令をかけてくれるのだった。やがて季節がめぐったある日、いつものようにラジオ体操に参加していた神楽の肩を誰かが叩くと、彼女は笑みを浮かべる……というストーリーだ。

 派手なバトルはない日常回だが、じんわりと感動させられる心温まるエピソードである。神楽と尚の友情はもちろんだが、それを見守る周囲の大人たちの優しさも素晴らしかった。


 ギャグもシリアスも、どちらも魅力的な『銀魂』。ふざけるときはふざけ倒し、決めるところはきっちり決めるというギャップがたまらない作品だ。もし未読の方がいるなら夏季休暇などに本編を読んで、空知英秋氏の描く人情あふれるストーリーを堪能してみてほしい。

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