■全てが規格外な“漢”が魅せる食と命への敬意
最後に紹介するのは、板垣恵介氏の漫画『刃牙シリーズ』から範馬勇次郎を選出。ここまでの二人は竜の騎士やらサイヤ人であったが、勇次郎は人類最強どころか“地上最強の生物”。その強さから多くの読者が「本当に人間なのか?」と疑わずにはいられないだろうが、人間の女性との間に刃牙をもうけているのだから生物学的にはギリ人間なのかもしれない。
ライオンのたてがみのような赤毛をオールバックにし、背中の筋肉が鬼の相貌に見える事から「オーガ」の異名を持つ巨漢。その強さゆえ傍若無人でエゴイストな人物だったが、この「最強父」が物語が進むにつれて意外な一面を見せるようになる。それが“食”に関するさまざまな名言・名シーンだ。
勇次郎の“食事”に対する姿勢や考え方には、多くのファンも大きく頷くかと思う。息子・刃牙に対して「何を食べているのかを意識しろ」「それが命 喰らう者に課せられた責任―――義務と知れ」。この言葉は格闘家以前に、人間として大変感慨深い。食事という名の命を“頂く”行為に対して勇次郎なりの敬意が伝わるからだ。
特に、刃牙がパックのメカブを食べるシーンで、勇次郎は読者の心をも揺るがす名シーンを作ってくれた。防腐剤などが入った食品が身体によいはずはない、だからといって健康にいい物だけを摂るのも健全とは言えない。つまりは「毒も喰らう 栄養も喰らう」「両方を共に美味と感じ―――血肉に変える度量こそが食には肝要だ」。勇次郎の言葉に思わず泣きそうになってしまう刃牙。強大な敵と戦う派手なバトルシーンではないが、この勇次郎の考え方はある意味で息子の身体を案じた父親の感動シーンと言えるだろう。
ちなみに、板垣氏の娘である板垣巴留氏の代表作『BEASTARS』でも、“命”を食べる意味などについて言及されている。もしかしたら作者である板垣氏はこの勇次郎を通して、父親目線で私たちへとメッセージを送っていたのかもしれない。
父親の愛情は人の数だけさまざまだ。こぶしや背中で語る者もいれば、やさしさを隠し持った不器用な人もいるだろう。父の日には、自分の父親に似た“父親キャラ”を漫画やアニメから見つけ出してみてはどうだろうか。