荒川弘氏の『鋼の錬金術師』は、『月刊少年ガンガン』(スクウェア・エニックス)で2001年から10年まで連載されていたバトルアクション漫画。アニメやゲームだけでなく実写映画にもなっていて、本日6月24日からは映画『鋼の錬金術師 完結編』の二部作目となる『最後の錬成』が公開。さらに今夏にはスマートフォン用アプリ『鋼の錬金術師 MOBILE』のリリースも控えているなど、連載開始から20年以上が経った今も愛され続けている人気作品だ。
物語の主人公である錬金術師・エルリック兄弟、エドワードとアルフォンスは、幼い頃に禁忌とされる人体錬成に手を出し、その結果アルは全身を失って鎧の体となり、エドも右腕と左足を失うことに。2人は元の体に戻るために必要な「賢者の石」を求めて旅に出るが、その過程でさまざまな戦いに巻きこまれ、多くの人々が死んでいった。
今回は、そんな作中に描かれたさまざまな死亡シーンの中でも、とくに筆者の印象に残った場面をご紹介したい。
※以下には、コミック『鋼の錬金術師』の一部内容が含まれています。ストーリーを解説するのが本記事の主目的ではありませんが、漫画およびアニメをまだご覧になっていない方、意図せぬネタバレが気になる方はご注意ください。
■慕っていたボスの手で……トカゲ型合成獣・ビドーの切ない最期
まず紹介したいのは、コミックス20巻の第82話で命を落とした、ビドーの死亡シーン。名前を聞いただけではピンとこない方も多いかもしれないが、彼はトカゲ型合成獣(キメラ)で、酒場「デビルズネスト」を根城にしていた一味の1人。つまりホムンクルス(人造人間)の強欲を司る「グリード」の元部下である。
その後、キング・ブラッドレイの手によりデビルズネストは壊滅。仲間は皆殺しにされたが、ビドーだけは唯一生き残った。そして捕縛されたグリードは“お父様”によって賢者の石に精製し直され、のちにリン・ヤオの体に注入。二代目グリードとして復活したが、初代グリードだった頃の記憶を失っていた。
くしくもビドーは、そのリンの姿をした二代目グリードと遭遇してしまう。独特の口調や口ぐせ、笑い方などから、かつて慕っていたボス・グリードだと確信したビドーは、驚くと同時にうれしさを隠しきれずにいた。
「グリードさん」と親しげに話しかけてくるビドーに、二代目グリードは記憶がよみがえった“フリ”をして喜ばせた挙げ句、「悪いな それたぶん前のグリードだ」と言い放って、あっさりと殺害。事切れる寸前にビドーが残した「仲…間……」という言葉がとても切なかった。
そんな、あまりにも悲しすぎる最期を迎えたビドー。しかし二代目グリードは、彼を殺した直後にフラッシュバックで初代の記憶を取り戻すことになる。その結果ホムンクルス組から離反し、エドたちの仲間になったのだから、ビドーの死はグリードにとっても、物語全体にとっても大きな影響を及ぼしたと言えるのかもしれない。