■「何十年も修行して達人にでもなるのを待ってから戦場にでるつもりか?」…コミックス24巻より
最後は「千年帝国の鷹(ミレニアム・ファルコン)篇 聖魔戦記の章『獣鬼(トロール)』」より、自信がないときに勇気をもらえるガッツの言葉。
断罪の塔でキャスカを救って以降、ガッツから剣の指導をしてもらえるようになったイシドロだが思うような成果がでないでいた。そんなイシドロにガッツは「そこから先は自分でやるんだ」とぶっきらぼうに突き放す。
ある日、両手投げの器用さをパックに褒められたイシドロは、ガッツとの手合わせで両手使いを活かしたフェイントを仕かけてみるも失敗に終わる。ところがガッツは「なかなかいい線いってたぜ」と珍しくほめるのだ。
釈然としないイシドロは、普通の修行は長い時間をかけてから技を伝授するものではと疑問をこぼすと、それを受けたガッツは体格や戦い方の違う自分のまねをしても始まらないとしながら、「それとも お前 何十年も修行して達人にでもなるのを待ってから戦場にでるつもりか?」「気の長げェ話だな」と呆れた顔をするのだ。全力で反発するイシドロに「だったら 今 手持ちのコマでやりくりするしかねぇだろ」と助言するのだった。
獣鬼(トロール)の襲撃からイーノック村を救うため、魔女シールケとともに討伐に向かうガッツ一行。皆が活躍する中、自分だけが役に立たないと劣等感を抱くイシドロ。しかし、水の精霊を召還したシールケが暴走したことで、キャスカとファルネーゼがトロールに連れ去られてしまう。
トロールの巣へと向かうガッツ一行は二人を救い出すと同時に、さらわれたイーノック村の女性や子どもを引き連れ脱出することに。足止めとして残るガッツはイシドロに最後尾を任せる。自信を失いかけたイシドロだったが、ガッツは「任せられるから任せた やりとげてみせろ」と振り返りもせずに言い放つ。
ガッツの信頼を受けイシドロは役目を全うする。ボスと思われるトロールが現れた際には、手持ちの武器(コマ)で果敢に戦い見事に打ち勝ってしまうのだった。
私たちは一歩を踏み出せずに悩むとき、さまざまな言い訳や葛藤に苛まれる。そんな心の暗闇を、作中のガッツは実に荒々しい言葉で造作もないと吹き飛ばしてくれた。抽象的な言葉や叙情詩を用いた表現も多い『ベルセルク』だが、ガッツの言葉は至極シンプルゆえに私たちの心に響くのかもしれない。