■「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」『鋼の錬金術師』よりショウ・タッカー

 最後に紹介するのは、劇場映画『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』の公開を6月24日に控えるバトル・ダークファンタジー漫画『鋼の錬金術師』から。その非道な行為で多くの読者に“トラウマ”を植えつけたと言っても過言ではない、綴命(ていめい)の錬金術師ショウ・タッカーを選出した。

 タッカーは2年前に人語を理解する合成獣(キメラ)を錬成し国家資格を取得した人物。合成獣の権威として知られるようになるものの、その後は研究成果がふるわず資格はく奪の瀬戸際に立たされることになってしまう。

 そんな折、エドとアルのエルリック兄弟がタッカーの家を訪れる。妻に逃げられてしまい、今は娘ニーナと犬のアレキサンダーと暮らしていると説明するタッカー。そんな事情を聞かされたエドは、自分たちを「お兄ちゃん」と呼び慕うニーナと親しくなっていく。

 ある日、エド兄弟がタッカー家を訪ねると、新しく錬成したという新作の合成獣を紹介された。その合成獣は人語を理解することができ、「エドワード」と教えると「えどわーど」と繰り返し喋ることができたが、続けて「えど」「わーど」「えどわーど」「お」「にい」「ちゃ」と呼んだことで、エドはタッカーが娘と愛犬を錬成に使用したことを突き止める。

「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 それまで温厚そうな笑顔を見せていたタッカーの表情が一変した、恐ろしいシーンだった。逃げたと話していた妻も、実は2年前に合成獣にされ衰弱死していた。タッカーは妻を犠牲に得た国家資格の地位が危うくなると、今度は査定のためにと再び家族を手にかけたのだ。

 哀れと思うスカーにニーナは殺されてしまうが、後にタッカーの人体錬成により肉体が復活。だが、アルをつなぎとめたエドのような強い意思が父親にはなかったため、ニーナの魂が戻ることはなかった。

 自身も醜い合成獣となってしまうタッカーだが、その心のいびつさは作中でも1、2を争う人物かもしれない。

 科学の進歩により私たちの生活は豊かで便利になった。だが、その豊かさが誰かの犠牲の上に成り立ってはならないだろう。今回紹介したキャラの誰もが、自らの欲望のために他者を利用し傷つけてきた。彼らを否定するとともに、いま一度自らの行いをかえりみたい。

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