■「死にたい」気持ちが「“ふつう”になりたい」に変化する瞬間

 物語が進む中、留美の気持ちにも少しずつ変化が生じてくる。羊介が提案した「就労継続支援」に最初はあまり乗り気ではなかったが、焦らず、押しつけることなく寄り添う羊介や真優に、少しずつ心を開いていく様子が見てとれる。

 その反面、母親は留美が仕事を始めることに対して消極的。「どうせまた挫折して落ち込むに決まってます…!」「なぐさめる私(こっち)が大変なんだから!」と否定的な感情をあらわにする。自殺願望がある当人のケアだけでなく、その家族とも丁寧に向き合っていく様子も“リアル”を感じる部分だ。

 その後、退院が決まった留美の口から出たのは「“ふつう”になりたいです」という言葉。「お仕事して、お金もらって、ごはんを食べて、夜ねて朝おきる」。彼女はそんな“普通の生活”を思い描くようになっていた。

 窓から漏れる光を浴びながら「あたし…お仕事しなきゃ」と思い立ったようにつぶやく留美。そのシーンになんだか救われた気がした。

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