スポーツ漫画の醍醐味と言えば、派手な必殺技や仲間との熱き友情、そして手に入れる勝利であろう。だが、物語を最高に盛り上げてくれるエッセンスは、さわやかさとは逆を行く卑劣な手段を使って主人公をはばむライバルの存在かもしれない。
そこで今回は、人気スポーツ漫画に登場してきた個性豊かかつ卑劣で非道なライバルキャラを紹介したい。
■『弱虫ペダル』より京都伏見高校・御堂筋翔
卑劣で陰湿なライバル……といえば、渡辺航氏によるロードレース漫画『弱虫ペダル』に登場する“御堂筋”を思い出す人が多いのではないだろうか。
御堂筋翔(みどうすじ あきら)は京都伏見高校のエースである。1年時には石垣、2年時には水田がキャプテンを務めたものの、実質チームを支配していたのは御堂筋だった。そのため、1年でありながら先輩や同年代にも自身を「君づけ」で呼ばせ、部員同士は番号か苗字で呼び合うことを強制し服従させていた。
御堂筋はのっぺりとした顔と見開いた黒い目や長い舌、極限まで無駄をそぎ落とした長身痩躯のキャラクター。この長い手足や首を大きくふらつかせ、相手に対して目をむき舌を出すなど御堂筋は挙動不審な動きが多い。
さらに、壇上で箱根学園に対し宣戦布告を行ったり、実力がないと判断した相手を「ザク(=量産型の雑魚)」「キモッ!!」呼びするなどして見下す尊大不遜な人物だ。
彼が持つ武器の一つに、綿密に練られた計略がある。それこそが相手を精神的かつ肉体的にも追い詰め、自身を完全勝利に導くものだと信じているからだ。強靭な肉体と精神を持つ箱根学園のエーススプリンター・新開隼人でさえ、2つも年下の御堂筋の作戦にハマりかけた。
平気で他者を愚弄し、侮蔑、嘲笑、謀略を繰り返す御堂筋は、敵チームどころか仲間さえ自分の勝利のためリタイアさせてしまう。
それまでの『弱ペダ』にはいなかった強烈なヒールキャラとしてレースをかき乱した御堂筋。彼がどうしてここまで勝ちにこだわるのか、その理由は幼少期にまでさかのぼる。幼い頃は体も小さく運動も苦手で、どちらかといえば気弱ないじめられっ子だった。だがある日、母が病気で入院してしまい叔父の家に預けられることに。そして小学生だった御堂筋は母の見舞いをするため、山向こうにある病院に毎日2時間かけて自転車で会いに行っていた。彼が勝ちにこだわるようになったのは、それから後に亡くなった母への思いがあった。
自身の身体を削るだけ削って、命がけでペダルを回し勝ちにこだわる御堂筋は、“卑劣”だけでは収まり切れない怪物のようなライバルなのである。