■悲運の大投手の切ない幕切れ……

『タッチ』における悲運の投手といえば、甲子園出場をかけた決勝戦の日に交通事故死した上杉和也が真っ先に思い浮かぶ。しかし、命を落とした和也とは比べようもないが、勢南の西村も少なからず不運に見舞われた投手だった。

 西村にとって高校最後の夏、達也のいる明青学園と戦う前に、準々決勝で勢南が三光学院に敗れるという大波乱があった。西村は小学生の頃から変化球を投げ続けたことで右肘を痛め、よりによって高校3年の夏にそれが悪化。その上、試合前日に西村のことを誰よりかわいがっていた祖母が亡くなるという不幸が重なったことも、少なからず影響したと思われる。

 その敗戦後、達也の前に現れた西村は、あくまで打たれたのは自分の調子が悪かっただけと語り、「……ばあさんのせいじゃねえ」と念をおしていた。押し出し四球でサヨナラ負けを喫した西村はマウンド上で号泣したというが、その涙は敗戦の悔しさだけのものではなかったはずだ。

 さらにプロ入り後、西村は肘の手術を経て新人王を獲得したが、わずか2年でケガが再発する不運……。一瞬の輝きを見せて、早すぎる引退を余儀なくされた。

■幼なじみとの関係

 浅倉南に一目惚れした西村だが、勢南野球部のマネージャーを務める鈴子(アニメで名前が判明)という幼なじみがいる。南のような美人ではない鈴子のことを、西村は邪険に扱う場面も多かったが、赤の他人が鈴子の容姿をからかった場面では怒りを見せていた。

 鈴子はひたすら西村に尽くし、献身的にサポート。3年夏の西村の不調にもいち早く気づいていた節があり、幼なじみなので当然西村の祖母が試合前日に亡くなったことも知っていたのだろう。

 そのせいか準々決勝の三光学院戦の前には、鈴子にとって恋のライバルであるはずの浅倉南に西村に声をかけてほしいと依頼するなど、少しでも彼を元気づけようと健気な行動をとった。

 西村も、こうした鈴子の涙ぐましいサポートにようやく気づいたようで、その後の関係性にも変化が生じていく。

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