■華麗な技を持つ河田は鯛…

 最後に紹介したいのは、インターハイで絶対王者「山王工業」と「湘北」が戦った試合中のこと。後半残り10分を切り、20点差をつけられた湘北は絶対絶命のピンチを迎えていた。

 花道の再投入により、少しずつ良いカタチが作れるようになった湘北だが、主将の赤木は全国最強クラスのセンター河田とのマッチアップに大苦戦。本来の姿を取り戻せずにいた。

 そんな中フリーでパスを受けた赤木は絶好の得点チャンスを得ながら、オフェンスチャージングを取られて頭から転倒。意識が薄れる中、赤木の後頭部に降ってきたのは、なんと「薄切りされた大根」である。

 これは試合が止まったコート上で大根をかつらむきする、陵南の魚住によるもの。板前姿の魚住が、コート上でシャリシャリと大根をかつらむきする絵面はとてもシュールだった。

 当然、すぐに警備員に連行されることになるが、そのとき魚住は「華麗な技を持つ河田は鯛…」「お前に華麗なんて言葉が似合うと思うか 赤木」と声をかける。続けて魚住は「お前は鰈(かれい)だ」「泥にまみれろよ」という言葉を残して去っていった。

 河田を意識しすぎるあまり本来のパフォーマンスを発揮できていなかった赤木に対する、魚住なりの檄だったのだろう。かつらむきをした大根を細く切っていくと“ツマ”ができる。要は「仲間のための引き立て役になれ」というメッセージでもある。

 それにしてもインターハイ本番のコート上で堂々と大根をむく度胸、「華麗」と「鰈(かれい)」をかけた言語センス。一人前の板前になった魚住は、きっと料理人や店主としても大成するのではないだろうか……と想像が膨らむ。

 2022年秋、『SLAM DUNK』は映画として復活する。どのシーンが描かれるのか今から楽しみなのだが、欲をいえば登場人物の“その後”が知りたいと切望してしまう。そしてスクリーンでも井上雄彦氏らしいセンスあふれる面白シーンを見てみたいものだ。

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