90年代に大ヒットした漫画を挙げると、やはり井上雄彦氏の『SLAM DUNK(スラムダンク)』は外せない。不良少年だった桜木花道がひょんなことから湘北高校のバスケ部に入り、真のバスケットマンへと成長していくアツいストーリーに胸が躍ったものだ。
スポーツ漫画、バスケ漫画としての完成度の高さは、言葉では言い表せないほど素晴らしいものだが、緊迫したシーンの合間に時折挟まれるギャグも井上雄彦作品の魅力のひとつ。そこで今回は、真面目な無口キャラがポツリと言うから面白かった、シュールなシーンに焦点を当てていきたい。
■はらたいらさんに3000点…!!
インターハイ出場の切符をかけた、激戦区の神奈川県リーグ。桜木花道のいる「湘北」は、昨年のインターハイ出場校である強豪「翔陽」との対戦を控えていた。他校のライバルたちも注目する一戦で、牧紳一率いる「海南大附属」と、魚住純率いる「陵南」の選手たちがこの試合会場の客席で鉢合わせる。
強豪校同士が対面し、重苦しい空気が流れる中、陵南の仙道は「海南はどっちが勝つと踏んでるんですか?」と主将の牧に質問。これに牧は「10点差で翔陽…」と自身の予想を述べた。
すぐさま海南の神も陵南の主将・魚住に同じ質問を返したのだが、真剣な表情をした魚住から飛び出したのが「はらたいらさんに3000点…!!」という珍回答だ。
平成生まれの読者だと、おそらく何のことか分からないであろう魚住のこのセリフ。実はこれ、1976年から92年まで放送された長寿クイズ番組『クイズダービー』(TBS系)が元ネタである。
同番組は、事前に誰がクイズに正解するかを予想し、点数を賭けて増やしていくというルール。その『クイズダービー』のレギュラー出演者である漫画家の「はらたいら氏」は、約75%という驚異のクイズ正解率を誇る超優秀なパネラーだった。
そのため抜群の信頼感があるはらたいら氏を頼りに点数をBETする「はらたいらさんに3000点」というフレーズが定着。一般人の間でも堅実な選択を行う際に、慣用句のように用いられたという背景がある。
つまり魚住は、バチバチのライバル校同士が対面する緊迫した状況の中で「ギャグを飛ばした」ことになる。格上のシード校・海南のメンバーにふざけた返しをした魚住を見た桜木軍団が「サスガ、ボス猿!!」とはやし立てたのも納得だ。
それにしても「はらたいらさんに3000点」は、昭和生まれにとっては懐かしいフレーズ。このシーンを読み返すたびに、『クイズダービー』でのはらたいら氏の活躍を思い出すファンも多いことだろう。