■捨てシャリの有無

「捨てシャリ」とは、“職人が寿司を握る際、取りすぎたシャリをおひつに戻す”動作のこと。寿司を手際よく、美しく握るにあたって、いわば余分な動きとされていた。

 将太は早握り勝負の際、この捨てシャリの行程を省くために、生米を使ったトレーニングを行い、毎回ほぼ同じ量のシャリをつかみ取る練習をしていた。

「一流の職人になると同じネタなら酢飯の量が2粒と違わない」と作中にあったが、高さがピシっとそろった寿司は見た目的にも美しく、味のばらつきも少なくなるのだろう。実際にお寿司屋に行ったとき、この捨てシャリの動作をチェックするのも興味深い。

 また、握る寿司ネタによってシャリの大きさを変えるのも、職人の成せる技だ。うまい寿司の基本は、ネタとシャリが口の中で等分に混ざることらしいが、たとえば貝のように歯ごたえがあるネタの場合、どうしても貝のほうが口の中に残りがち。そこでシャリの量を多少多めにするといった工夫が紹介されていた。さらに、呑みこみやすくなるという利点もあるという。

 ちなみにこのシャリの大きさの工夫は、新人寿司職人コンクールの決勝戦の一幕「貝勝負」での将太の勝因にもなっている。寿司屋で貝の握りを頼んだ際には、ほかのネタとシャリの量を見比べてみたくなる。

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