■少ない登場ながら重厚な物語を見せたシャドウ
ラストシーンもグッときますが、そのラストシーンを引き立ててくれているのは、宿屋で見られるランダムイベントの「夢」ですよね。夢の内容は、ビリーと「シャドウ」という強盗団を組んでいたこと、そしてそのビリーの頼みを聞けず、裏切った形になってしまったことが描かれています。
しかし、宿屋に泊まれば必ず見られるイベントでもないので、4回すべてを確認するためには、そういう仕様だと理解していないといけません。初プレイが小学生だった僕には分かりませんでしたが、その後大学生になってから改めてプレイしたとき、なんてドラマチックなキャラクターなんだと思い直しました。初プレイのときは離脱も多いし、なんか犬のほうが強いし、あんまり印象に残らなかったんですよね。ティナとセリスの「入れ替わりヒロイン」のほうが好きなクソガキでした。
シャドウの「俺はいつでも死神に追われている」というセリフは、この夢のイベントを見るとなんとなく理解できるようになるのですが、彼には後ろめたい過去が多すぎます。ビリーしかり、サマサの村で生まれたばかりの娘と妻を置いていったことしかり、そもそも暗殺をしていたことしかり……。
そんな彼がティナに「世の中には、自ら感情をすてて生きようとする人間もいるのだ」と声を掛けるシーンは、プレイヤーにも刺さりますよね。
大人になるとこのシャドウの生き方に少しだけ共感できるようになります。
たしかに娘のリルムを置いて自ら死を選ぶのは無責任かなと思いますし、裏切られたと感じているであろうビリーに「温かく迎えてもらえる」と思っているのもどうかと思いますが、人間って都合の悪いことを忘れないと前を向けないことがあるんですよね。
子どもの頃はやはり不完全さと不安定さの魅力に気づけませんでしたが、大人になるとシャドウの危うさと誰よりも人間臭い生き方に共感できるようになって、気づけば虜になっていました。幸い、リルムはシャドウを父親だと気づかないままだったし、インターセプターにはお別れを告げられたし、ケフカも倒したし、思い残すことはなかったのでしょう。
ちなみにシャドウは離脱が多すぎるためか、「離脱バグ」というゲームの進行ができなくなるバグが存在しました。ピクセルリマスター版では修正されていますが、過去作をプレイする場合は事前にその情報だけ確認しておきましょう。めったにお目にかかれるバグではありませんが、ゲーム進行不能というのはなかなか凶悪なので……。
プレイヤーによって加入させる回数もバラバラなので、思い入れに大きな差があるキャラクターだと思いますし、14人それぞれにドラマがあるのでシャドウだけにフォーカスを当てることはあまりないかもしれませんが、その分熱烈なファンが多いキャラクターでしょう。少ない見せ場もすべて強烈なインパクトを残し、新しい試みとして作られた『FF6』の主人公らしい登場とフィナーレを迎えたのは間違いなくシャドウだったのではないでしょうか。