■「ナルト走り」ほか、人気作に継承されていった聖闘士走り
『エイトマン』放送の1963年といえば、まだテレビはモノクロで、アニメがテレビ漫画と呼ばれていた時代。動画枚数は今とは比べ物にならないほど少なく、それこそアニメはテレビで見る漫画のようなものだった。そこで先達が作ったエイトマンの走りを、荒木氏は卓越したセンスで「聖闘士走り」として進化させたわけだ。
『エイトマン』から23年、荒木氏が進化させた聖闘士走りはさらに16年後の2002年、テレビアニメ『NARUTO-ナルト-』で「ナルト走り」として復活。忍(しのび)であるナルトたちにちなみ「忍者走り」とも呼ばれ、再び脚光を浴びることになる。子ども時分に真似をしたという人も多いだろうし、若い世代にはむしろこちらのほうが知った呼び名かもしれない。
外国人が大好きな忍者ものということもあって、『NARUTO-ナルト-』はアメリカでも大人気。「ナルト走りチャレンジ」なるイベントが各地で開催され、2019年には1人のファンがFacebookで呼びかけたエリア51突入イベントが米軍を巻き込むちょっとした騒動を起こしている。
ネバタ州の砂漠に位置する米軍の極秘軍事施設エリア51には墜落したUFOが保管され、宇宙人も保護されているとまことしやかに囁かれている。このイベントは「エリア51に宇宙人が本当にいるかどうか、ナルト走りで突入して暴こう」というもので、参加表明者は瞬く間に100万人、200万人と数を増やし、ジョークのつもりだった企画者は慌てて撤回を宣言。結局、イベント当日は70人余りしか集まらなかったというが、地域の警察が出動するはた迷惑な事態となっている。『NARUTO-ナルト-』の名前がこのような騒ぎで取り上げられてしまうのはいただけないが、それだけの熱量で作品が愛されているのはある意味嬉しくもあるところだ。
また、聖闘士走りのフォームは2008年から放送の『イナズマイレブン』でもエイリア学園の生徒が独自の高速走法として使用しており、先日最終回を迎えたアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』では音柱・宇随天元もこの走法で疾走した。宇随は元忍という出自。それであればと、もしかしたらアニメーターもお約束の気持ちだったのかもしれない。荒木氏考案の聖闘士走りはこのように今のアニメにも継承され、36年前に編み出された描写がいかに先進的なものだったのか、これはその証明であるとも言えるだろう。