1985年12月から『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載が始まった車田正美氏の漫画『聖闘士星矢』。ギリシャ神話をモチーフにしたファンタジー色ある物語、主人公・聖矢たちがまとう聖衣(クロス)、小宇宙(コスモ)を爆発させて放つ必殺技など、王道と斬新が合わさったアイデアは少年読者の圧倒的な支持を受け、連載開始から1年も経たずにテレビアニメの放送がスタートした人気作品だ。
キャラクターデザイン、作画監督を務めた荒木伸吾氏はアニメ化に際し、少年読者に大人気だった車田漫画のキャラクターに少女漫画的な色づけを加え、大胆にビジュアルをアレンジ。車田氏のキャラクターはそもそも美形がベースにあることもあり、これが見事にマッチして放送が始まるやいなや女性層のハートを一気に鷲づかみにした。聖衣のデザインもやや武骨だった漫画版から流麗なアーマーに変更され、人気作におけるここまでの原作アレンジはなかなか見ない画期的なことだった。
■荒木伸吾氏が編み出した「聖闘士走り」
そんな大ヒットアニメの『聖闘士星矢』において、荒木氏はファンから「聖闘士走り」と呼ばれる独特な疾走描写を編み出している。
聖闘士走りとは両手をVの字の形で後方に伸ばし、上半身は前傾姿勢で固定。足だけを素早く動かし突っ走っていくという走法で、原作には一切なかったアニメオリジナルの表現になる。アニメ版『聖闘士星矢』では聖闘士のみならず、敵の戦士もこのフォームでありとあらゆるところを駆け抜けていった。画面越しに伝わるスピード感に加え、俯瞰構図も多いアニメにおいてこれはとても見栄えのいいフォームで、作中たびたび挿入され、視聴者に与えたインパクトは抜群であった。
ただ走るというだけの絵を、ケレン味あふれるアクションに変えたこの聖闘士走り。荒木氏は、その原型は懐かしのアニメ『エイトマン』(1963年)にあると、『フィギュア王』(ワールドフォトプレス)No.109のインタビューで答えている。
そこでは「上半身をまったく動かさず、足だけを動かしてた訳です。アニメーターの手間を減らすための手法だと思うんですが、その走りはむしろ非常に効果的だったんですよ。足だけ動いている姿はスピード感がありましたね」と、発案につながった経緯が語られている。