「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」
アニメや映画などでこの言葉を口にしたが最後、かなりの高確率でその人物の未来が終わってしまうと言われる死の呪文。『ファイナルファンタジー』で言えば“死の宣告”を受けたようなものだろうか。俗に“死亡フラグ”と呼ばれるこれ、もしも推しのキャラクターが発しでもしたらその後の嫌な展開を想像して、暗い気分になってしまうことだろう。
数ある死亡フラグの中でも特にネタにされているのが、この「結婚するんだ」だが、元ネタはさかのぼること36年前。ベトナム戦争を描いた映画『プラトーン』(1986年、米)だという説が多い。ベトナム帰還兵である監督、オリバー・ストーン氏の実体験に基づいて描かれた本作。密林という過酷な戦地を舞台に、米兵によるベトナム民間人の虐殺、味方殺し、薬物の蔓延など戦争の現実がリアリスティックに描写されていくのだが、件の死亡フラグ事件はその物語序盤で起こる。
「俺たち真剣につきあってるんだ。(戦争から)帰ったら結婚しようと思ってる」
そう笑顔で彼女の写真を見せた主人公・クリスの同僚新兵はわずか10数分後、初めての戦闘で銃弾を浴びて戦死してしまうのだ。幸せな未来を示唆しつつ残酷な現実に突き落とすというのは、悲喜劇を演出する常套手段。『プラトーン』以前にも似たような事例はいくつもあるのだが、いい奴っぽかった同僚新兵があっけなく戦死してしまったこと、結婚というこれ以上ないリア充ワードが印象的だったことが重なり、死亡フラグの代名詞として広まったのだと思われる。
■ジョジョにもあった「結婚」死亡フラグ
そんな「俺、結婚するんだ」という死亡フラグ。他に使われている作品を探してみると、これがありそうでどうにも見当たらない(そもそもネタとして使用している作品は除く)。定番のように思っていたのは、ネタに踊らされる刷り込みのようなものだったのか……。しかし、記憶をたぐってようやく見つけ出した『ジョジョの奇妙な冒険』! 求めていたセリフは第2部「戦闘潮流」第21話にしっかり存在していた。
発言者はマルク。シーザー・ツェペリの友人の青年兵士だ。シーザーを柱の男が眠る場所に案内する車中、かわいい彼女の写真が入ったペンダントを首から掛け、よりにもよって、「来週ですね ドイツへ帰ったら結婚するんス ボクたち」と口走ってしまうのだ。結果、そのわずか9ページ後、眠りから覚めていたワムウに「トン」と肩が触れたと思った瞬間、そのまま右半身を“捕食”されるという悲劇に遭ってしまう。
結婚ワードといい、登場して即退場というモブ扱いといい、まさに『プラトーン』をほうふつさせる死亡フラグとその回収ぶり。『ジョジョ』作者の荒木飛呂彦氏は映画好きで知られ、作中には『ゴッドファーザー』や『エイリアン2』など映画のオマージュと思われるシーンが散りばめられている。そう考えると、ひょっとしたらこのシーンも『プラトーン』のオマージュだったのかもしれない。