■子どもたちの大冒険

『MOTHER』は「子どもの目から見た冒険」を見事に表現していたゲームだったように思う。

 自宅から遠く離れたところには、いったい何があるのだろうか? そこには自分が見たことのない素晴らしい光景が広がっているに違いない。そして、気の合う友だちもいるはずだ。バットを手に勇気を振り絞り、襲いかかる敵をやっつける。

 そして疲れたら家路につく。『MOTHER』の主人公は不幸な境遇の孤児というわけではなく、それどころか母親と2人の妹と飼い犬がいる温かい家にいつでも帰ることができる。単身赴任中の父親は、定期的にお金をくれる。このゲームは幸せな中流家庭の子が主人公なのだ。

 母親に話しかけると、「ぼく」の好きな食べ物を作ってくれる。これは本編開始前に「すきなこんだて」の名前を入力する形で設定できる仕組みだ。それがハンバーグだった場合、旅に疲れた「ぼく」のために母親が何も聞かずにハンバーグを作ってくれる。

 前述のとおり、父親はATMにお金を振り込んでくれて、長時間ゲームをすると心配して休みを急かしてくれたりする。『MOTHER』のシナリオは家庭の優しさを下地としたもので、大人になってあらためてプレイすると彼らのセリフのひとつひとつがじんわりしみてきてしまう。ただ単純にセーブをするために父親に電話をしたはずが、そこにそれ以外の意味が込められている。そんなゲームはそれまで味わったことがなかった。

■クリエイターの情熱と才能を惜しみなく反映!

『MOTHER』をクリアすると、スタッフロールが流れる。

 このスタッフロールで「PLAYER」の項目になんと自分の名前が出る仕様になっている。なぜ、このゲームはぼくの名前を知ってるんだ!? と驚愕した子どもは少なくないだろう。このあたりもネタバレになってしまうためここでは説明しないが、要するに稀代のコピーライターは「どうしたら子どもたちを感動させることができるのか?」ということを熟知していたのだ。そしてそこで、大人になっても感動してしまう。

 そんな名作RPG『MOTHER』。初見の人はエンディングまでどうか泣かずにプレイしてみてほしい。

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