■悲劇は分かる…でも俺だってシンシアと家族を殺された
ここまでのピサロの行動指針は、あくまでも恋人にひどいことをした人間たちを滅ぼすという正義によるもので、世界を征服したいという願望がメインではありません。彼は人間が憎いだけです。
ここだけを鑑みれば、彼は悲劇のヒーローでしょう。彼を主人公とした話があってもおかしくないほど、ドラクエの敵キャラとしては珍しくしっかりストーリーが作られているキャラクターで、彼への愛情も伝わってきます。
ただ、少し待っていただきたい。彼がロザリーを失うまでに、主人公は故郷を滅ぼされています。幼なじみの少女・シンシアと自分の家族を含めた、自分の身の周りの大切な人すべての命を奪われています。
これはもはや、ロザリーを襲っていた哀れな人間の蛮行とほとんど大差ない悪行なのではないでしょうか。というか、いくら主人公がしゃべらないドラクエとはいえ、ピサロが自身の悪行について「反省する気はない」と述べたことに対しては、もっと怒ってもよいのではないでしょうか。真の黒幕はエビルプリーストだった、というだけではやはり納得できません。
リメイク版で追加された「第6章」では、ロザリーが世界樹の花によって蘇るという感動シーンがありますが、多くのプレイヤーが「いや、シンシアに使わせてよ」と思ったことでしょう。
ロザリーはもちろん生き返ってほしいけど、ピサロの都合をあまりにも重視しすぎてはいないでしょうか。『テイルズ・オブ・ジ・アビス』のルークのように、しおらしくなりすぎるのもあれですが、主人公たちのために罪滅ぼしをさせてほしい、申し訳ない、といった感じで加入してくれればまだ飲み込めたのに……。
ただ『クロノ・トリガー』の魔王、『スーパーマリオRPG』のクッパのように、かつての敵が心強い味方となって戦ってくれるというのはテンションが上がる。ゲームを盛り上げる要素の一つではあると思うのですが、私はやっぱりシンシアの「モシャスイベント」がずっと心にしこりのように残ったまま、最後を迎えてしまうのです。
村の真ん中で拾える「はねぼうし」を、シンシアの忘れ形見として売らずに持ち続けていた私のようなプレイヤーもいたことでしょう。ピサロばかりではなく、主人公たちも救われるような展開にできなかったものかと、どうしても気になってしまうんです……。