2014年から『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載されている堀越耕平氏による人気バトル漫画『僕のヒーローアカデミア』。地球人類のほとんどが「個性」と呼ばれる特殊能力を持ち、個性を悪用するヴィラン(敵)とそれを取り締まる職業としてのヒーローの戦いが描かれる。
アメコミ風なテイストを持ちながらも、単純な勧善懲悪ではないストーリー展開が魅力のひとつで、ヒロアカの主要なヴィランたちは骨太な背景を持っていることが多い。そこで今回は、そんなヴィランの悲しいストーリーをいくつか紹介したい。いずれもヒーローになっていてもおかしくない、魅力と実力をもつキャラクターだ。
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記事では『僕のヒーローアカデミア』のストーリーについてのネタバレを含んでおります。未読の方はご注意ください。
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■転落した人生を歩む犯罪動画クリエイター
まずは、ジェントル・クリミナル(以下、ジェントル)を紹介しよう。ジェントルは、ヴィランではあるが義賊であり、作中に登場するほかのヴィランとは少々毛色が違う。
不祥事を起こした者へ私刑を下す犯罪動画を動画投稿サイトにアップしており、作中では主人公・緑谷出久(みどりやいずく。以下、デク)が通う名門校の雄英高校に潜入しようとした。無機物に弾性を持たせる個性「弾性」とパートナーであるラブラバの個性「愛」をもって、デクを苦しめる。
そんなジェントルは、もともとヒーロー志望で、「歴史に名を残したい」と考えるほど強い想いを持つ学生だった。しかし、あるとき男性を助けようとしたところ、プロヒーローの邪魔をしてしまい、公務執行妨害に処されてしまう。この事件がきっかけで家族は崩壊し、「世を変えたい」という思いが屈折してヴィランへと身をやつしてしまったのだった。
ジェントルはヒーローになれなかったなれの果てとして描かれており、「もともと無個性でヒーローに憧れつつも、不可能な現実に絶望していた」経験があるデクの共感を誘う。数多くの強敵と戦ってきたデクに「もっとも戦いにくい相手だった」と言わしめた。
ちなみに、ジェントル・クリミナルというヴィラン名は「紳士的な犯罪者」という意味。ヒーローに憧れる気持ちをいまだ持ちつつも、自らを犯罪者だと言い聞かすような悲しい決意を筆者は感じた。