■2人同時プレイの醍醐味
ステージは全32面。上述の通り、ステージが進めば進むほど難しくなっていく。最終面などは動く雲のスピードも非常に早く、「こんなのどうやって行けばいいんだ!?」と叫びたくなってしまうほどだった。
また『アイスクライマー』は2人同時プレイの面白さを広く認識させたゲームとも言える。ポポとナナを2人が同時に操作することによって、協力しながら山頂を目指す……はずだが、『アイスクライマー』はどちらかひとりでも上階に行くと最下層がスクロールする仕組み。つまり両者の技術格差が開いていると、下手なほうが置いてきぼりを食らってしまうのだ。もちろん、スクロール前に上へ登らないとミスである。
ゆえに、このゲームはやろうと思えば裏切り行為もできたのだ。途中まで協力するフリを見せ、最後の最後で相棒を見捨てて自分だけ山頂に行ってしまうというプレイだ。これでリアルの喧嘩が発生した、という例も少なくなかったはず。
■『アイスクライマー』は広大な遊び場だった!
80年代当時、『サザエさん』のような多世帯家族はもはや珍しくなり、代わりに「夫妻とその子どもだけ」の家庭が主流になった。その上、一人っ子世帯も時代が進むにつれて多くなっていき、夫婦共働きの家では「鍵っ子」が留守を預かった。
さらに、高度経済成長期のように「どの町にも野球のできる空き地がある」という状況はなくなってしまった。子どもの数が少なくなり、彼らの遊び場も減っている。『アイスクライマー』が発売されたファミコン初期はそういう時代だった。
ファミコンは80年代の子どもたちにとってはどの空き地よりも広いグラウンドであり、クラスメートとの友情を強化できるツールであり、コンピューター操作の基礎知識を教えてくれる先生でもあったように思う。
『アイスクライマー』はひとりで遊ぶソフトではない、と断言するのは少し言い過ぎかもしれないが、ひとりで遊ぶのと友だちと協力して遊ぶのとではまったく世界が違うというのもこのソフトの特徴だった。優れたテクニックを持つAくんが、ゲーム初心者のBくんのために行くべきルートを切り開き、「ここをこうすれば上手く移動できるんだよ」と教えてあげる光景。それは21世紀を見据えた「友情の新しい姿」に他ならなかった。
ファミコンの名作『アイスクライマー』は、子どもたちの進化に大きく貢献したソフトだったと言ってもいいのではないだろうか。