■自分の経験をテキスト化

 アバンは直接指導するだけでなく、その教えを書物にしたためている。それこそが、この世に1冊しかない手書きの本「アバンの書」だ。アバンが勇者として得た貴重な知識や経験を限られた時間の中で教えきるのは難しい。しかし本として残しておけば、彼の亡きあとも後世のためになることは間違いない。

 実際にヒュンケルはアバンの書を読んでアバン流の槍の使い方を学びなおしたが、そこに書かれていたのは武芸や呪文に関する技術だけではない。アバンの書の「空の章」には、心に関する記述もある。

「…傷つき迷える者たちへ… 敗北とは傷つき倒れることではありません。そうした時に自分を見失った時のことを言うのです」「強く心を持ちなさい。あせらずにもう一度じっくりと自分の使命と力量を考えなおしてみなさい」「自分にできることはいくつもない」「一人一人がもてる最善の力を尽くす時、たとえ状況が絶望の淵でも必ずや勝利への光明が見えるでしょう」。

 この亡き師が書き残したメッセージは、身も心も疲弊していたアバンの使徒たちを勇気づける。さらに一緒に聞いていたレオナの心にも刺さったようで、一国の王女としての新たな行動に導いた。

 このように直接声をかけずとも、本に書かれたメッセージに心を動かされるケースは珍しくない。現代社会においても文書化して記録に残したり、マニュアル化して分かりやすく伝えることは重要な手法だ。

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